第10話 刑事たちさおりの秘密に驚く
翌日、二人の男が京太郎と今日子を訪ねて来た。
(誰かしら? さおりの手の者ではなそうね)とモニターを見ながらそう感じた。
男たちは「私たちは新宿署の刑事です」と言った。
(ああ、昨日の警察官絡みの話ね)
今日子はドアを開けた。
「失礼します」そう言って入って来た男たちの眼光は、いかにも刑事ですというように鋭かった。
「昨日、あなたたちに助けてもらった警察官のお礼を申しにまいりました」
「いえいえ、で、あの人はどうなりましたか」
「よほどの衝撃を受けたのか、意識がまともにならなくて、現在は休職中です」
「そうですか。どうぞ中にお入りください。お茶でもいれますわ」
奥の部屋から京太郎も出てきて4人でテーブルについた。
年配の方の刑事が訊いた。
「さっそくですが、いったい、どうなっているのですか」
「分かりません。私たちがあの部屋のチャイムを鳴らして入ったところ、あの人が玄関口で腰を抜かしていた状態だったので」
(きっと、さおりの異形を見せられたのね。でも、これは言えないわ)
「それで私たちが引きずり出したというわけです」と京太郎が言った。
「あそこは禁断のフロアーで誰も立ち入ってはいけないところなのです。立ち入ると……襲われると大家さんから警告を受けています」
「なるほど、大家さんは魔界フロアーと呼んでいますが、本当に魔物がいるのでしょうか」
「ええ」と言葉を濁しながら、京太郎は訊いた。
「ところで、花山院さおりさんの本籍をご存じですか」
「もちろんです。彼女は青森県の出身です。下北半島ですね」
(下北半島? 恐山のある地じゃない?)
京太郎と今日子は思わず目を合わせた。
これでイラストの謎がよりはっきりした。
なぜなら、恐山のある
つまり、小さな足跡を残した犯人はさおりの実の子というわけだ。
完璧にイラストから得た推理と一致する。
これは、もう間違いないだろうと京太郎は確信した。
「ところで、もう一つお訊きしたいことがあるのですが。よろしいでしょうか」
刑事は渋い顔をして言った。
「ええ、どうぞ」
渋い顔をしたのは、この二人は肝心なところをボカシて言わないからだ。
「現場には、小さな足跡が残されていたようですが、犯人は分かったのですか」
「それがね、どこを探しても猫の子一匹見つからないのですよ」
「そうですか、このマンションの実質上のオーナーはさおりさんですからね、部屋の改築は自由自在じゃないですか。つまり、どこかに抜け道や隠し部屋があるとか。伊賀のからくり屋敷のように」
刑事二人は「えっ」という感じで顔を見合わせていた。
「でも、このマンションの登記上の権利者は大家の財前さんですよ」
「登記上はそうでも、ここを支配しているのはさおりさんですよ」
(あの女は怨霊ですから、登記などをする必要がないでしょうと言いたかったが、絶対に通じない話なので言えない)
「そうですか、さおりがオーナーだなんて考えもしなかった。それで7階に5つも部屋を持っているのか。盲点だったな。ありがとうございます。再点検してみますよ」
「屋上もね」
「屋上? それも考えもしなかった」
「ところで、この世に幽霊とか魔物とかは実在しているんでしょうか」
「百%実在していますよ。ですから、7階を調査されるときは怪異が現れる可能性を視野にいれておかれた方がいいですね。そうでないと、あの若い警察官の二の舞になるかもしれないですから」
(ひぇ!)
刑事たちは急にそわそわしだした。
どうもこの手の話は苦手らしい。
三十代半ばにみえる若い方の刑事が訊いた。
「あの放心状態の新人警察官は、魂を抜かれたのでしょうか」
今日子が答えた。
「いえ、魂は抜かれていません。ただ、想像以上の恐怖を味わされたために精神が壊れたのではないかと」
「想像以上の恐怖? それはどのようなものですか」
「それは言えません。私の想像上のことなので、ただ、それがどのようなものかはおおよその見当は付きますが、具体的なことは言えません」
若い方の刑事が言った。
「私でもその恐怖を体験すれば精神が崩壊するでしょうか」
「それは分かりませんが、不意打ちを食らえば、腰を抜かすかもしれませんね」
(腰を抜かす?)
目を白黒させている若い刑事に年配の刑事が笑いながら言った。
「五代君なら大丈夫だろう。ねぇ、お嬢さんはどう思われますか?」
今日子は苦笑した。
(百%腰を抜かしますよ)
でも、その思いは飲み込んだ。
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