▼▼様の祠を壊してしまった件について――インタビュー

牧瀬実那

□□町回覧板 特別号に寄せて

インタビュー日:2024/9/XX

文責:〇谷 〇平


 まず、祠を壊してしまったことについて、ものすごく反省しています。申し訳ありませんでした。


 言い訳になってしまうのですが、あのときは月の休日は数えられればいい方だったし、残業は3桁を超えてるのが当たり前の状態でして。

 あの日も朝帰り……と言っても殆どお昼くらいの時間に退勤したので、あんまりどうやって帰ったのか覚えてないんです。

 だから躓いて転んだときも、何が起こったのかよくわかってなくて。振り返ったら小さい……あの、よくお札とか収まってる平たい木の家?の残骸が散らばってるのを見ても「こんなところに置くなんて」くらいにしか思いませんでした。

 子供達が寄ってきたのには驚きよりも恥ずかしさの方が勝ってました。「うわー大の大人が転んでるとこ見られちゃったなぁ」って。

 彼らが「大丈夫?」って聞いてきたので「大丈夫」って笑って返したんですけど、皆きょとんとした顔をして。

「おじさんじゃなくて▼▼くんのこと」「おじさん、▼▼くんのおうち壊したんでしょ?」「▼▼くんかわいそう……」「▼▼くん泣いてるよ」「謝っておじさん」

 って口々に言うので、困惑しました。家を壊した覚えが無いし、パッと見泣いてる子も居ないし。

 ふざけてんのかなって思ったんですけど、どうも真剣な顔をしてたんで、とりあえず謝りました。会社で謝ることには慣れてたんで、頭を下げることに抵抗はなかったです。

 そうしたら、子供達がヒソヒソ話し合って、笑顔になったんです。

「▼▼くん、いいよだって!」「今日から代わりにおじさんんちに住むって!」「新しいおうち見つかって良かったね、▼▼くん!」「今度遊びに行くよ!」

 流石に気味が悪くなったので、適当に愛想笑いをしてその場から逃げるように帰りました。

 家は特に変わった様子が無かったので、ホッとしました。ああ、疲れてるんだなぁって。適当にカップ麺食べて寝ようと思ったら、布団の上に子供が座ってるのが見えたんですよ。

「あ、▼▼くんだ」

 って、すごく自然に考えたあと、めちゃくちゃビックリして悲鳴を上げました。だって本当に居るんですもん(笑)

 でも本当にめちゃくちゃ疲れてたんで、怖かったけど布団の端っこの方に横になって寝ました。何度も言って申し訳ないんですが、寝ないとヤバかったんで……


 それからは結構大変でしたね。


 ▼▼くん、気が付いたらお風呂場に居たり、霊障って感じでテレビとかスマホとかバグらせてくる上に時間とかこっちの事情とか関係なく色々やってくるから、流石に限界が来ちゃって、まあ、休職する運びになりました。

 休職って言っても、▼▼くんは相変わらずだったんで休むに休めなかったから、大家さんに相談したら、しばらく悩んだあと、地元の神社に連れて行ってくれました。

 神主さんもうーんってしばらく考え込んで、

「まあ、丁寧におもてなししたら、そんなに悪い存在モノでもないですよ。とりあえず、神棚とかなんかそういうのでちゃんと定位置を作ってみるとか」

 ってアドバイスを貰いました。

 それで、就職する前に興味本位で買った「推しを祀る社」っていうアクリルスタンドがあったのを思い出したんで、組み立てて「▼▼くんの家」って書いて置いたんです。

 意外と気に入ってくれたみたいで、時間関係なく暴れるってことはなくなりました。

 どっちかっていうと、自分が夜更かししたりちゃんと食事しなかったりしたら暴れる、みたいな感じで、お母さんかなって(笑)

 大家さんやご近所さんが時々「これ▼▼様に上げて。その後は捨てるなり食べるなり自由にしていいから」って色々持ってきてくれて、▼▼くんに用意した後、自分もお裾分けしてもらうようになりました。

 あとは、たまにあのときの子供達が遊びに来るようになりましたね。うちに来てお菓子食べたり、ゲームやったり、漫画読んだり。

 ▼▼くん、聞いた感じだと結構昔からこの町に住んでるらしいんですが、意外とゲームとか新しいもの好きでもあるみたいで、皆と一緒にスプブラやったり、お菓子食べたりしてます。まあ、勝手にコントローラーが動いてるように見えるんでシュールっちゃシュールなんですけど(笑) これ、内緒ですよ?

 時々期間限定のお菓子とか買ってきたりすると子供達と一緒に目をキラキラさせてます。あー、子供と変わらないんだなって感じで、かわいいです。

 結果的に健康的な生活になって、会社も辞められたし、ご近所さんの御縁で落ち着いた在宅ワークが出来るようにもなったんで、良かったな〜が今の気持ちですね。

 自分も「▼▼様」って呼びたいんですが、当人が嫌そうにするので、「▼▼くん」って今でも呼ばせてもらってます。まあ確かに普段の様子を見てると「▼▼くん」って感じではあるんですが(笑)

 

 これからですか?

 まだ25にもなってないんですが、長時間労働のおかげでお金だけはあるんで、古民家をリノベーションしたところに引っ越そうかなって考えてます。

 その方が子供達がより広い場所で遊べるし、テレビももう一台買ったら▼▼くんとゲームの取り合いをせずに済みますから(笑)

 ただ、▼▼くんの家がまだアクスタなのはちょっと気まずいんですよね。

 ▼▼くんは気に入ってるみたいなんですが、アクリルって結構劣化が早かったりするじゃないですか。

 早めにちゃんとした社にしたいですね、って町長さんともお話ししてるところです。

 親しみやすい感じで、ご近所さんも気軽に訪ねられる感じ……だと、やっぱりちょっといいところに建てたいし、それなりに費用がかかっちゃうかな、と。

 まあ別にいくらかかってもこちらとしては問題ないんですが、良い機会なので、一緒に建ててくれる方を募集しようかな、ってことで、今回回覧板に募集要項を載せる運びになりました。

 

 参加される方は別紙にお名前と電話番号もしくは連絡が取れるものをご記入ください。

 よろしくお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

 ▼▼様の祠を壊してしまった件について――インタビュー 牧瀬実那 @sorazono

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画