23品 親友
フェリーチェが機嫌を損ねた鉢植えをあやしている間に開会式が終わった。この愛待ち街の長はアンティーク店のオルタという男だった。ボロボロアーケードでフコダイン液を優勝賞品にし、狂犬シルバーという不良少女が若ハゲを押し退けて手にした。シルバーは一体どこにいるのだろう。あの日以来見かけていない。
フェリーチェとミーティア先生が鉢植えと格闘しているところ、声をかけてきた第一お客様がいらした。
「あ、お客さぁん。どうもどうもぉ」
と二人は笑顔を作って振り返った。
「あ、シオンちゃんだったのかぁ。いらっしゃいませぇ。シャルルちゃんも青い薔薇似合ってるぅ!それから、そこの無口な……、薄紅色の綺麗な長髪とぉ、真っ黒い角が決まってるぅ、シオンちゃんの未来の旦那さん!」
フェリーチェはどんなに花占いの売り込みの練習をしたとてからかうことはやめない。客を気まずくさせる店主っていうのは気の良さも発揮している気がする。フェリーチェはそんな店主の人柄を尊敬し、憧れていた。ハルジオンは隣の無口なリアンおじさまと目が合って、顔を赤くして慌てていた。シャルロットは後方で腕を組んで、満面の笑みで頷いていた。
「もう、王様!私をからかった罰、考えておきますからねっ!ほら、花占いして!」
ハルジオンはリアンおじさまの視線から逃げて、フェリーチェに500マネ払った。
「うまくいっておくれよ」
と彼女に鉢植えを渡し、膝を折って祈りの言葉を伝える。エーデルワイスさまも心を持っているのだから、先日リーリエの占いの時よりも過剰に褒めたたえた。謎の空間から謎の光が鉢植えに降り注いだ。エーデルワイスが土から顔を出した。
「おおお……よく地上へいらしました。こうして話をさせていただく機会を得られるとは思いもしませんでした……。よろしければ……この花を摘んで、ハルジオン姫の飾りにしてください。わたくしも姫の幸せを願っています♪」
その言葉を最後にフェリーチェはエーデルワイスを引っこ抜き、リアンおじさまに「贈れ」と渡した。彼は頷き、ハルジオンの薔薇色の髪に白い花をかける。魔法で花の茎を髪に巻きつけて落ちないようにした。
ハルジオンがシャルロットに鏡を出させて、花をつけた自分を素敵だとチェックしている。そろそろ行くか、となった時にリアンおじさまがフェリーチェの肩に触れ、
「よく生きて帰ってこれたな」
と重低音で囁く。フェリーチェは意味ありげに口角を上げて頷いた。
「これからは自分の生きたいように生きるよ。リアンも後悔のないように幸せになれ」
リアンおじさまはふっと笑って、少女二人が待つ方へ悠々と長い足で追いかけた。
「君の親友は素敵な方だね」
とミーティア先生がフェリーチェに覗き込むように思ったことを言葉にした。
「そうだね、わたしの親友だから」
そういえば、ミーティア先生の親友のレイくんは何をしているのだろう。
「レイくんは警備の指揮を執っているよ。ほんわかしているのに逞しいよね。僕はそういうギャップが好き」
「さすが、ミーティアくんの親友だね」
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