22品 幻の露店

 花祭りの日、早朝3時頃。ばっちり九時間睡眠したフェリーチェはミーティア先生を起こした。いつもは起こしてもらう側だが、祭りの日が楽しみで早起きできたそうだ。眠そうな彼の手を引いたまま、エーデルワイスのご加護がある鉢植えを入れるポシェットを探し回った。

「どこにあるでしょう?」

 ミーティア先生がゲームを始めたら、フェリーチェは彼のクローゼットを混ぜっ返して止められた。悲しいことにエロ本は見つからなかった。


 花祭りの日、早朝3時半。エミコちゃんが起床し、ミーティア先生の部屋を掃除する。フェリーチェはミーティア先生の手を引いて、パジャマのまま鉢植えと散歩する。今日もこの土埃魔神は清らかな心を持っていてグレる気配がない。グレたとしても、地上の西の花園を目指す会にもらった腐葉土でどうにかする。フェリーチェ、グレることを恐れてはならない。帰ってきたらミーティア先生がフェリーチェをおめかしする準備を始めた。


 花祭りの日、早朝6時。エメちゃんがのんびり起床して、フェリーチェの髪型を褒める。ミーティア先生が用意してくれた花とリボンを組み込んだ三つ編みで、フェリーチェはぴょんぴょん飛び跳ねてはしゃいだ。ミーティア先生も今日は仮面の代わりに青いサングラスをかけ、髪も服装もフェリーチェの色合いと寄せていた。二人は露店で朝ごはんを食べる予定だ。

 今日のエメちゃんはエミコちゃんのためにイカスミパスタを作るつもりだった。「歯が黒くなるでしょ!」といつも通りツッコミを欲しがっていた。結果、エミコちゃんに止められて一緒に露店を回ることにした。


 花祭りの日、開会式9時になるまで、露店を楽しもうと早朝の7時に出発する。ミーティア先生曰く、開会式までにしか開店しない幻の露店があるらしい。彼も見つけたことがなくてフェリーチェとなら見つけられそう、と言えば、フェリーチェもやる気に満ちて彼の手を引いた。「楽しいね、ああ楽しいね」という童歌を二人は歌いながら歩く。早朝だったが、祭りの日は皆早起きだから、この日だけ朝の時間帯に歌うのが許されていた。

 二人はずっと機嫌が良かったが幻の露店は見つからなかった。フェリーチェ・レーダーでも見つけられなかった。

「今日は別の仕事があるんだろうな」

 フェリーチェは鉢植えの入ったポシェットにソッと叩いた。

「来年は別の占いだな」

 と彼女はポシェットを開けて、鉢植えに耳を寄せて報告したら、エーデルワイスさまはグレていた。フェリーチェがどんなに腐葉土をこねても土埃魔神はハードボイルドなことしか言わなくなってしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る