21品 エーデルワイスさま
花祭りが近づく中学校では、クラス毎に花の乙女コンテストのために一人の女の子を選ばなければならなかった。あるクラスでは鬼姫リーリエを押し出していた。しかし、リーリエは相変わらず人の認識ができない。しかし、そのつれなさが男子たちの心に火がついて、彼女の気を惹きたくていろいろ話しかけていた。ジーヌも飛び火で男子から話しかけられて舞い上がっている中、花占いの売り込み方ばかり練習するギャザーキャップを被ったあの女が乱入してきた。
「花占〜い、花占いはいかがぁ?あ、そこのお兄さぁん。そうそう、高身長でぇ、金茶色の髪のぉ、チャラっとしたいい感じのぉ、お・ま・え」
指名されたジェームは他の男子たちに背中を押されて、
「なにかな?」
とにこやかにフェリーチェの相手になる。
「おまえ、気になる子、この教室にいるでしょぉ〜?花占いしてみなぁい?物言わぬ花が何を言うか、わたしでもよく分からないけどぉ、花に聞いてみよっ☆」
フェリーチェは好印象を与えるようにウィンクをするが、ジェームの笑顔は凍ってしまった。
「気になる子って誰だか言ってみろよー!」
周りが持て囃す中、ジェームは動揺を押し隠していつものノリのいい調子で応えようとする。その中、リーリエがジェームの方を見つめているようで、彼の心臓がどきりと高鳴る。男子たちも驚いて、
「鬼姫が初めて人を見つけたぞ!相手はジェームか!」
と吠える。リーリエは止めるジーヌを物を退かすように振り払い、ジェームの方をまっすぐ歩いてくる。ジェームはらしくなく顔を赤らめて、彼女を見離せないでいた。そして、リーリエの手が彼に伸びて触れる。ジェームは触れられた部分から発火しそうなほどの熱さを感じ、ヘニャヘニャと腰が砕けそうになるが堪える。
リーリエは名前を呟いてジェームもジーヌと同じく物のように退かした。そして、鉢植えに耳を傾けていたフェリーチェの前にどんと見下ろした。
「目の前のお客さぁん、割り込みはいけませんぜぇ」
フェリーチェはリーリエを避け、項垂れるジェームに、
「元気出してくださいねぇ」
と花占いを始めたフリをする。
「よし、これでバッチリ」
とフェリーチェは満足してスタスタと教室を出る。
「待て!私にもしろ!」
リーリエが必死にフェリーチェの肩を掴んだ。
「おお、積極的なお客さんは初めてですねぇ!ありがたい!」
とフェリーチェの声のトーンが上がれば、リーリエは照れたように、
「ま、まあな」
と頭を搔く。その声は凛とした中、ほっとしたような、嬉しいような、初めて普通の少女のようなものを感じられた。リーリエのクラスメイトはただ戸惑いを隠せずにいた。
「花占いは花祭りの日に実際にするんだけど、積極的なお姉さんにはと・く・べ・つ!今からやってあげる!」
フェリーチェは土に耳をつけてブツブツ呟き、良質な土埃魔神に了承を得る。リーリエは彼女に手を取られて鉢植えを持たされた。
「花の乙女を選定するエーデルワイスさま。どの女神よりも高貴で朗らかで柔らかいエーデルワイスさま。、シュヴァルツ・ザーメン・グラースの気難しい女を和らげる陽光のように、サクラのように自分が女神で一番だと言わんばかりの女にも心を寄せる素敵なエーデルワイスさま。どうかこの少女に何かお言葉をくださいまし」
とフェリーチェは膝を折って手を組んで祈った。すると、謎の光が空間から差し込み、鉢植えを照らす。そして、リーリエの花が咲いた。紛うことなき白百合が、
「全ての人に、一人ずつ、秘めた強さがあるのよ。リーリエちゃんは、近くの人の強さに気づいていない、まだまだ未熟な女の子ね♪」
それだけ言ってスポットライトは消えた。フェリーチェは咲いた花を鉢植えから引っこ抜いて、ラッピングペーパーに包み、リボンをつけて、リーリエに渡したら、鉢植えを返してもらい手を振って去った。
リーリエは花を抱きしめて、
「それでお前たちは誰だ?」
と初めて人を認識した日を迎えた。クラスメイトは先程の不思議な光景にぼんやりしていたが、リーリエに向けられた質問にいち早く答えたのはジーヌであった。リーリエは花の乙女コンテストに興味がないため断った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます