19品 花占い

 フェリーチェの今日の服装は、ミーティア先生印の花祭り準備仕様のジャージだった。ネモフィラの花のワッペンがあちらこちらにアイロンで押し当ててくれたものだ。

「もしもし」

 フェリーチェは地面に這いつくばって土の声を聞こうとする。

「髪に土が付くでしょ!」

 木陰にいたミーティア先生が彼女に駆け寄った。

「そのためのギャザーキャップだ」

 フェリーチェは彼に髪の土埃魔神を払わせて、使い捨てビニールキャップを被って土に耳をつけた。

 フェリーチェは花祭りでも出張おまじない屋をする予定だ。前回の「おじさんのためのフコダイン液祭り」で露店をしたが、警戒心の強い子猫ちゃんたちが全然寄り付かずに、アウェイな思いをさせられた。

 今回は土だけの鉢植えを持って、歩く人々に声をかけて花占いをし、花をプレゼントして愛待ち街の住人に溶け込もうという作戦だ。ミーティア先生も「楽しそうだねー」と花のプレゼント用にラッピングペーパーとリボンを購入した。一回500マネにする。フェリーチェは今、相性のいい土質探しをしていた。

 フェリーチェが太陽の下でワガママなままに野ざらしになった地面に耳をすませば、土埃魔神がブツブツ文句を言い続けている。あまりいい土質じゃないんだな、と彼女は地上の西の花園を目指す会で参加賞としてもらった腐葉土を混ぜる。態度が軟化する素振りを見せながらもブツブツしている。

「この土質とは仲良くなれない」

 とフェリーチェはほふく前進してミーティア先生のいる木陰の湿った土質に耳を傾けた。とにかく性格のいい子を探し出すこと。それを妥協しないことが花占いの成功に繋がる。花祭りの間、いいパートナーでありたい、というフェリーチェの願いは結果として届いた。


 次の日、フェリーチェは花占いを売り込む練習を、花祭りの準備をする運営にしていた。運営は、地上の西の花園を目指す会の会長をするムーニー先生が指揮を執る。ミーティア先生と友達らしい。食べ物は咀嚼せずに飲み込むという自分ルールを持っている。

 フェリーチェの売り込みがうるさかったのか、一人生贄が捧げられた。トキという木製眼鏡のドリュアス族の女子だった。フェリーチェは面倒くさそうに棒立ちする彼女をその場において、

「花占いしませんかぁ?そこのドリュアス族のぉ、褐色でぇ、綺麗な緑の髪したお姉さぁん。その瞳は何者も興味がないのにぃ、わたしを映してくださいましたなぁ。これは運命の出会いじゃ、ありませんかぁ!ぜひぜひ花占いしちゃってくださいよぉー!何が起きるかわからないですけど☆」

 と呼び込んだ。トキは動かないが、フェリーチェはにこにこして彼女の前に立ち、よくわからない種を土に植えて、耳をつけた。

「こらーーー!髪に土がつくでしょーー!」

 とミーティア先生が駆け寄ってきた。彼が仏頂面のトキに謝れば、ようやく彼女は口を開いた。

「この女、一体何がしたいの?私をおちょくりたいの?」

 フェリーチェは何もわかっていないほよんとした顔で、ミーティア先生を見上げれば、彼は頭を撫でざるを得なくなり、

「そうだよね、フェリーチェを受け入れない世界がおかしいんだもんね。こんなのおかしいよね」

 二人は猛吹雪の中体を温め合うように抱きしめて慰めている。トキはそんな不気味な光景に対しても微動だにしなかった。

「本番で頑張ろうね」

 とミーティア先生はまだ慰めていた。

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