17品 連鎖

「王のおまじないでも上手くいかないことってあるんですね」

 トワイライトの留年女王ハルジオンはしょんぼりして、夕方、おまじない屋に報告しに来た。エメちゃんは店の掃除をしながら明るい恋のメロディーを鼻で歌っている。フェリーチェは暗い曲調のレコードを流した。エメちゃんの閉ざされた陽の世界に、ハルジオンの悲しみが髪の毛一本の陰でも入れないか、フェリーチェはエメちゃんチャレンジを始めた。

「花祭り、例の婚約者と上手く行かなかったの?」

 ミーティア先生はそう聞けば、ハルジオンは無言で俯いた。彼女の婚約者はスノウという銀髪の男だ。今、三聖女の一人を護衛している。

「彼は忙しいから難しいと」

 シャルロットは視線をずらして窓の外を見、スノウを跡形もなく世界の記憶から消す方法を脳内計算していた。エメちゃんは花祭りに花を降らせられないのか、フェリーチェに後でお願いしようと考えている。

 フェリーチェははっと思い出したように、

「リアンおじさまを呼ぼう」と提案する。ハルジオンはぱっと顔を上げて、澱んでいた目をキラキラと輝かせた。ミーティア先生もハルジオンに優しく微笑んで、二人は一緒にバンザイした。 シャルロットの頭からも失礼で傲慢な男が立ち去った。

 その男を拾い上げたのはエメちゃんであった。エメちゃんの世界にいる男の額に赤い雨が降り注ぎ、世紀末を予期させた。エメちゃんはお気に入りの傘を広げて、台所に行きバーミアンジュースを作り始めた。

 エメちゃんがピンクのジュースを五人分用意して、店内に戻ってきた。ハルジオンはリアンおじさまに手紙を書いていて、シャルロットは花祭りまで返事が届くように、ガチャガチャと準備をしていた。

「スノウさんを搾ったジュースをお持ちしました!」

 とエメちゃんは元気よくテーブルに置いた。フェリーチェは愉快そうにいただいたが、ミーティア先生は慌てるようにハルジオンを見た。彼女は手紙を書く手を止めて、ペンを放棄し、顔を覆う。一方、シャルロットは花園行き荷物転送機をいじる手を止めなかった。

「私、浮気しているのかしら」

 ハルジオンはメソメソとジュースのストローに口をつける。

「もう関係は破綻していますわ。十三年間、姫がヤツに手紙を送っても帰ってこない。姫はお優しいから色々と頑張りますけど……心は離れているでしょう?あなたも人間なのですから」

 シャルロットの言葉はハルジオンを大事にする気持ちで溢れていた。その気持ちに触れたエメちゃんも動き出す。フェリーチェの肩にそっと触れて、顔を覗き込んだ。

「エメちゃんもフェーちゃんのこと、大事な友達だと思っているよ」

 すると、フェリーチェの目に星屑が散らばる。

 すでに日が暮れ、二人は帰り、ミーティア先生は趣味の天体観測の準備を始める。ハルジオンはリアンおじさまに手紙を送った。そしてリアンおじさまを通して、彼女の父王にもスノウの態度について耳に入れば、ミーティア先生の夢枕に立って愚痴を聞かせるに違いない。ミーティア先生は愚痴を聞く時間よりも、星の動きから導き出す影響の方がよっぽど有意義で徹夜するそうだ。フェリーチェも「明日は休日にする」と寝袋を並べる準備を始めた。ミーティア先生の寝袋に自分の寝袋と一緒に入って暖を作ってあげるのも準備のひとつだ。

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