16品 バラバラ事件

「やっぱりフェリーチェには青い花が似合うよな」

 ミーティア先生が中学校の裏庭で、呟く。フェリーチェは地上の西の花園を目指す会に参加して、せっせと街中に花を植えていた。彼はその姿を木陰で眺めていた。この会の会員になった者は「花園計画同志エプロン」をまとって活動ができるのだが、フェリーチェは会に入らなかったため、ミーティア印の薄青色の給食着を来て作業していた。

 フェリーチェは重たい腐葉土の袋を抱えていた。ツルツルの袋がずりずりと彼女の腕から落ちていき、袋の四つ端にちょびっと出ているビニールの部分を持って、落とさないようにこらえている。その部分はしっかりしているのか、よれるくらいでビヨーンと伸びない。

「だいじょーぶー?」

 ミーティア先生はパッと走り出して、フェリーチェの土を下から支えた。そして、一回土を地面において、フェリーチェにもう一度抱え直させた。それからまっすぐ持ち場に戻った。

「ミーティアせんせー、ルティちゃんから聞いたよー。今年はフェリーチェさんと一緒に行くってー」

 彼の友人であるムーニー先生が手の土埃魔神をパンパンはらいながら、やってきた。

「ルティちゃん、毎年誘ってくれてたもんね……断るのはちょっと心が痛んだよ」

 とミーティア先生は思案気味に俯いた。

「これからも友達でいてくれたら十分だよー」

 ムーニー先生は彼の背中をポンポンと叩いて、会員の一人に呼ばれて走り去った。


「おやすみ、フェリーチェ」

 昼間の腐葉土運びに従事していた彼女は、すぐに眠りについた。ミーティア先生は、二人の家事手伝いに夜散歩をしてくるから何かあったら連絡してね、と伝えて闇魔法で転移した。向かう先は慈悲深きレイくんのボロ教会だ。

「今日の聖書の一句教えて」

 ミーティア先生は華麗にドアを開けて、レイくんに聞く。レイくんは待ってましたとばかりにクスッと笑って、薄い本を開く。

「今日の一句ですね。これはどうでしょう。ポヨ記から。『……隠れていろ。これ以上痛い目にあいたくなくばな』」

 と余韻を残して読んだ。

「ハードボイルドで素敵……」

 とミーティア先生はうっとりとすると、

「私の愛読書ですからね」

 レイくんはポヨ記を閉じて、得意げに小部屋に案内した。

「意中の人を婚約者にしたレイくんに折り入って相談がある」

 とミーティア先生は、フェリーチェの花冠の花は何を選べばいいか、助言を貰いに来た。彼的には「苦難の道を歩んできた先駆者」として、青い薔薇が咲いた茨の冠を是非つけて欲しい、と思っていたようだ。

「でも、さすがに色々と尖りすぎだし迷っているんだ」

 それを聞いたレイくんは、

「婚約者の不良のすがたの時に、アクセサリーとして贈りたいですね」

 と思い至り、ミーティア先生に茨の冠案を使う許可をもらった。

「いっそ桜色にしたらどうです?」

 とレイくんは提案する。

「サクラで問題になっている女神さまか……」

 ミーティア先生は女神といえども裏のある女性の花を使うことを渋った。レイくんは苦笑いして、

「その目の色だよ、ミーティア先生」

「えっ、フェリーチェにはまだ早いよー!」

 ミーティア先生は照れて、瞳の色案を今年は採用しなかった。


 ミーティア先生はレイくんにお礼を言って別れて、夜散歩がてら、フェリーチェに似合う花探しをした。彼は裏路地に散らばる赤い薔薇の花弁を見つける。それを拾い上げ、

「やっぱり青い薔薇かな」

 と冷静に呟いて、スマホで自警団に連絡する。身元不明の植物人間のバラバラ死体があることを。犯人は近くのゴミ箱の中で意識を潜めているが、大声で言えるものでなく自警団が来るまで見張っていた。切羽詰まった犯人がゴミ箱から飛び出して、ミーティア先生を殺して逃げるつもりだったがあっさり撃退された。

 その犯人は薔薇が大好きで、植物人間の薔薇を花祭りのために手に入れるため犯罪を犯したらしい。ミーティア先生はその動機を聞いて、「別の青い花にしよう」と考えを変えた。犯人は侵略生物の植物人間を退治したことを感謝されたが、ミーティア先生を殺そうとした罪は重たい、とおこさま王宮の地下刑務所に連れて行かれた。

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