13品 ルティの無視
今日も女性客が一人。
フェリーチェはララミーと同じく、
「恋のおまじないでも?」
と話しかければ、お客様にギンと眼光を鋭くして睨まれてしまった。その圧倒的な目力に負けたフェリーチェは、店の裏でラジオを聞いているミーティア先生に助けを求めた。
「泣く子も黙ってしまう程の、今にもナイフを突き出しそうな雰囲気の、ワインレッドの鮮やかな髪を逆立てた鬼族のお客様がやってきた。怖いからミーティアくんを彼女に捧げる」
「いやーん、捧げないでー」
ミーティア先生はそう言いつつ、フェリーチェに手を引かれることに満更でもなかった。彼は鬼女のような目で微動だにしない彼女を見ては、
「あっ、ルティちゃ〜ん!」
と嬉しそうにお茶の用意を始めた。
「ミーティアくんとお友達なの?」
フェリーチェはルティに聞いてみたが無視された。ここまで露骨に無視されるのは初めてである。
フェリーチェはミーティア先生の元に戻り、こっそり聞く。
「ルティさんは何をしている人なの?」
「医療従事者。異例の若さで看護師長になった子だよ。仕事モードの時は天使のように優しくて賢いらしいけど、オフモードの時はあんな感じで、ちょっと取っ付きにくくなっちゃう」
「頭の良さも下がっちゃうの?」
「疲れていると大抵の能力は下がっちゃうよね。ルティちゃんがまだ仕事の囚われの身じゃなかった時は、態度が悪くて賢かったな」
ミーティア先生は本人が近くにいるのに、お茶を作る手を止めて、遠い記憶になったあの頃に郷愁を感じていた。
フェリーチェはまたルティの所に戻って、
「ミーティアくんの友達だったんだ」
と話しかけても無視される。フェリーチェはどうしてもルティの声が聞きたくて、どうしたら返事をくれるか考える。
その間に、ミーティア先生がお茶を持って店の方に出てきた。ルティにいっぱい話しかけるフェリーチェの頭を撫でて、座らせた。ルティは二人の様子にピクッとどこかが反応した。
「あーん♡」
とミーティア先生がフェリーチェの口にお菓子を持ってくる。ルティのこめかみがピクピクと反応する。フェリーチェはその法則を導き出すために、ミーティアを後ろからぎゅーっと抱きしめた。ルティだけでなくミーティア先生も反応した。フェリーチェは彼女にそのまま堂々と聞いた。
「ミーティアくんと恋人なの?」
ルティは青筋を立てて、瞳孔をカッと開いて初めて応えた。
「そうよ」
それは重低音のデスボイスで、酒と煙草を愛してしまった今の彼女を表していた。
「おお、なんてことだ。疲れているんだね」とフェリーチェはミーティア先生から離れて、ルティに膝枕をしてあげた。太ももに爪を立てられた。
「もう、ルティちゃんは冗談ばっか〜」
ミーティア先生はルティの変わり果てた喉に驚かないように堪えていた。ルティが好きな彼も無視するのは、日々の不摂生の結果からなのか定かでない。しかし、ルティはそんな弱いタマの女でない、とフェリーチェは思っていた。
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