12品 給食食べに来たぜ
小学校学年交流給食会が行われた日。フェリーチェは青いサングラスをつけ、小さなキャリーケースをコロコロ転がして、クラスのドアを勢いよく開けた。
「給食食べに来たぜ」
いつも通りクラスの注目を浴びた。一切合切に。クラスメイトが目を輝かせて颯爽とフェリーチェの席を作るが、その席はあちこちにできてしまった。フェリーチェ本人は満更でもなく、
「やれやれ……わたしの体は一つしかないんだぞ」
と帽子を目深に被って、口元だけきらりと光らせた。今日は彼女だけでなくミーティア先生も一緒にクラスに来ていて、フェリーチェを孤立した二席のうちの一席に座らせた。
「無人島に誰を連れて行くなら……やっぱりミーティアくんだ」
フェリーチェが彼をクラスの笑い者にしたら、彼にポンと頭を軽く小突かれた。フェリーチェは、給食着に身を包んだクラスメイトがせっせと働いている姿を見て、ミーティア先生の裾を引っ張って、無言で給食着に指をさした。
「今度、縫ってあげるから今は大人しくするの」
そう言って、ミーティア先生はおぼんを持って立ち上がり、フェリーチェも後に続いた。
「ねーねー、おねえちゃん、なんでしょーがっこーとちゅーがっこー、いっしょなのー?」
と小さい子が手を挙げて聞く。給食タイムはフェリーチェへの質問タイムになっていた。
「小学生の生態と中学生の生態は興味深いことに違っているから、わたしは独自に研究しているんだ。お前も研究対象にしてやろうか」
フェリーチェはニタニタと立ち上がって、捕獲しようと手をワキワキさせれば、小さい子たちは「キャー!」と楽しげに悲鳴をあげた。クラスの担任のナズナ先生が、
「ご飯中に立ち上がらない!」
とフェリーチェたちにキツく注意をした。
「ねーねー、おねえちゃっておまじないのおみせやってるんだよねー?ほかになにしているのー?」
と別の小さい子が聞く。
「当たりすぎる占い師をしている。本気を出したら世界がいつ終わるかわかる。それを読み取ってしまったことがあって、さすがのわたしも無気力になってしまったことがあるんだな」
世界が滅亡してしまうことを知った小さい子は、お兄さんやお姉さん、先生たちに慰められた。
「ほかはなにしてるのー?」
と別の小さい子──すでに個性をなくしてしまった、特徴的な間伸びする喋りの子が聞く。
「まじない師と未来予知師以外の肩書きが聞きたいのか。隠すものでもないが、ひとつ。ケサランパサランのブリーダーをしている」
「動物取扱委員会に一言申しましたか?」
それを聞いたナズナ先生が目を剣にして、詰問する時みたいに鼻息が荒くなった。
「ケサランパサランは精霊みたいなものだから、動物ではない。食べ物は糸くずで、何かを犠牲にして生き延びる我々とは違って、高等な存在だ。あの子たちをブリーダーできる人なんて、世界中のどこを探してもわたししかいないだろう」
ブリーダーフェリーチェは軽い傲慢と陶酔、そして使命感を抱く。ナズナ先生は彼女が話の通じないタイプの人だと思い、無視した。
「ケサランパサラン飼いたい」とボナペティートがどんな姿かたちか聞いてきた。ケサランパサランの仕入れは秋まで待つように。
「ほかはなにしてるのー?」
とフェリーチェはその後振り返って、四つ子が次々と質問してきたんじゃないか、とちょっと気になるくらい個性を失った子が聞いてきた。
「ケサランパサランのブリーダーでは満足に至らなかったかな。わたしはある森でマスターをしている。ちっこい子は知らない言葉だろうが地主をしている」
ミーティア先生がパッと顔を輝かせて、
「メルヒェンね」
と呟いたが、クラスメイトはよくわかっていなかった。
「その森のマスターになった経緯は……複雑極まるがまあ目の療養だ」
フェリーチェは自分の青ざめた白い目を指さした。
「最近まで何も見えない状態だったからか、見るもの全てが新鮮でな。特に人の顔を見るのが好きだ。目が見えない時よりもよく見えるから」
彼女はクラスメイトに、
「不気味な色をした目だというのに、受け入れてくれてありがとう」
と感謝した。彼らは照れながら頷いた。なんだかこそばゆい給食タイムになってしまった。
フェリーチェは知らない人に「気持ち悪い目」と言われて、仮面をつけ続けていた過去がある。それから、「ミーティア」という男が仲間にいたある旅で、彼からアクアマリンのネックレスを見て、
「フェリーチェの目に似合うよ」
と渡してくれた。彼女は婿探し中の飼い鳥シソさんの目を通して見たミーティアの顔は本気で、仮面を外す勇気を貰った心の熱さは、今でも覚えている。それからも、ミーティアが「可愛い可愛い」と幾度となく褒めてくれて、そのおかげで仮面は宝物箱にしまった。
今はミーティアがクロヒョウの仮面を被っているけど、その理由が、
「自分の顔に飽きた」
というのはなんだか拍子抜ける。でも、きっとそれだけじゃないんだろう。けど、フェリーチェは深く聞かないようにし、ミーティアがさりげなく自分の心を救ってくれたように、自分も救えたらなって思っている。
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