11品 グッドラック

 フェリーチェは小学校で仲良くなった女子たちから、気になる男子の連絡先を言い当てるように挑戦状を叩きつけてきた。この挑戦を挑まれること自体、未来予知師フェリーチェの誉であった。

「仕方あるまい」

 フェリーチェは予知報告書の書類の束を鞄から取り出して、予知を聞いた人はすべて書類に名前を書くように求めた。「結構大人の手順が必要……?」と引き気味のクラスメイトに、

「名前を書くだけで色々知れるぞ」

 と彼女は発破をかけるが動く気配なし。見かねたある男子がその書類の出処を聞けば、

「全世界楽園計画本部のサファイア、という予知に関するコレクターに送る。予知した内容を書くのはわたしだが、その内容を第三者に送っていいかどうか、いいのならば名前を書くように。書かないのならば言わぬ。わたしは彼女から金を貰っているからな」

 女子は書類の重圧を乗り越えて、それでもフェリーチェの力を試したいと名前を書いた。「ボナペティート」と。偽名でも名前は名前であった。他のクラスメイトも予知を聞きたくて名前を記入する。藁人形に呪われたままのプリエラは、フェリーチェに友達を奪われたショックを抱えたまま律儀に本名で書いた。それもそれでなんだか浮いているようだった。

 フェリーチェは「ぬんっ」と目を閉じて、腕を組んだ。まず、ボナペティートの気になる男子を当てる。

「隣のクラスの秀才メガネくんだな。特技はジャグリングそろばん、か。メガネくんには大きな秘密があるな。家に……いや、やめておこう。それはボナペティート次第だ。無闇に広める訳にはいかん。幼い頃から自立心を育つようにしっかり教育されて、表ではしっかり者に振る舞うが、それゆえにストレスが溜まっているのだろう。その発散法が特殊であれ、ボナペティートの愛を持ってすればなんとかなろう。頑張れボナペティート!メガネくんを包み込める愛を……!ああ、ボナペティート!」

 フェリーチェの震え上がる予知内容を固唾を飲んで聞く一同。

「000188182だ。ボナペティートが連絡先を交換できているから覗かせてもらった。さあ行け、ボナペティート。あとは勇気だけだ」

 とフェリーチェが送り出せば、ボナペティートは駆けた。彼女の多難の恋に発火した少女たちの心。フェリーチェに「もっと」を要求する。男子たちは恋とか愛とか気恥ずかしく口数が減っていたが、フェリーチェの予知内容が気になって仕方なかったため動く気配なし。

 フェリーチェは三十分、相手をしてあげた。

「今のままでは連絡先の交換は未来永劫有り得ない」

 困難な恋路に立たされる子。

「彼には別に気になる人がいるようだ」

 振られてしまって「殺してやるぅ!」と泣き出す子。フェリーチェは言いたいことだけ言って、ミーティア先生がクラスまで迎えに来てくれて、手を引かれて帰った。

「フェリーチェは次いつ来るんだろうか」

 そわそわするクラスメイトであった。


 その次の日。フェリーチェは、中学生徒会の人気のコンビである、ランコとモリーに声をかけられた。『メンタルヘルスが常に危険信号の恋愛狂クロッカス』を女神に持つ1月5日生まれのコギャルの姉、であるランコは昨日の連絡先予報を妹から聞いて、好きな人の連絡先を知りたがっていた。細かく言えば、フェリーチェが好きな人の連絡先を知る経緯が色々と面白いと評判で聞きたいだけだった。

 フェリーチェはカッコつけながらバッと書類を出して、サファイアのコレクションになることを伝えて、名前を書かせた。ランコの隣でダラダラするモリーもミミズが這ったやる気のない字で記名してくれた。

 早速、フェリーチェは「ぬんっ」と腕を組んで目を閉じ、「むっ」と険しい鳴き声を発した。そして、

「今すぐ連絡先を交換しに行け今すぐ連絡先を交換しに行け今すぐ連絡先を交換しに行け」

 とぶつぶつ低く唱え始めた。

「なになになに怖い怖い!?」

 ランコとモリーはそっと抱きしめ合った。彼女は目を閉じたまま、

「彼はランコちゃんとファーストキスすることで、体内の新星霊爆発が起き、寿命が一気に伸びるだろう。これからの人生、ランコちゃんというファクターがなければ……この男は一年経たずに変死体として見つかるだろう」

 不吉な予報を聞いた二人は顔を青ざめた。

「彼はもともと病弱な人だ。しかし賢い人で財産を多く持ち、それを狙う事件に巻き込まれてしまった。彼が健康体であれば避けられる事件だな。連絡先は008891504。ランコちゃん、さあ行きたまえ!彼は奥手だからキスはランコちゃんからだぞ!」

 フェリーチェが昨日から何度もかけたか分からない発破をかければ、

「今すぐ行ってくる!」

 ランコはスマホのとあるボタンを押して、屋上へ走り出した。サングラスをかけたコギャルが操縦する、ケロシンという航空機体が頭の羽を回して降りてきた。

「姉貴、どーしたの?」

「ねーちゃんのファーストキスを捧げに行くの!」

「ひゅー!例のにーちゃんの病院に行こっ!」

 姉妹はケロシンに乗って飛び立った。フェリーチェはモリーに航空機体を指さすと、

「ああ、ランコってなんとかっていう財閥のお嬢様なんだー」

 と教えてくれた。

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