10品 おじさんのためのフコイダン液を手に!

 今日は「おじさんのためのフコイダン液」を奪い合う、ゲーム祭りが開催される。主催はアンティーク店の主人オルター。この優勝賞品は所謂育毛剤で、若ハゲに悩む者たちは喉が出るほど欲しい代物であった。しかし、若ハゲの心配もないある美しい少女が、絶対に手に入れなければならないと燃え上がっていた。黒いキャスケットに、黒マスクの、黒いロックンロールの格好の、ボロボロアーケードの不良たちからは「狂犬シルバー」と呼ばれた少女が、今駆け出す!


 お祭り会場はボロボロアーケードを抜けたゴミゴミ広場で、なんかボロいし、くちゃい。フェリーチェは早朝からお祭りの屋台を開いていた。『出張フェリーチェのおまじない屋さん』だ。おまじないの内容はギャンブル運をあげるもの、と謳っている。ゲーム参加者には勝つおまじないをかけていない生身の状態で頑張って欲しい、とフェリーチェは願っている。その代わりとして、誰に賭けるかと勝負する不良たちに向けて、250マネぽっきりの値段だ。賭けた人を応援する不良たちの願いがおまじないの力に変わり、参加者の力になるだろう。

 出張おまじない屋は初出店ということで好奇の視線に晒されたが、警戒心の強い不良たちは近づいてくれなかった。フェリーチェはしょんぼりしてミーティア先生が買ってくれたたこ焼きを食べていた。そのアウェイな中で、ハルジオンがレイくんを連れて声をかけてくれた。

「私、狂犬シルバーに賭けようと思っていまして」

「おお……父王が泣くぞ……!」

「我が父の財産は湯水のように湧きますが、仕送りは少ないんですよ。留年して楽しむにも資金が必要ですから。王のおまじないがあれば絶対にシルバーが優勝できるはず!」

「それなら仕方あるまい……」

 フェリーチェはハルジオンの手の甲にバツ印を描いておまじないを完了した。レイくんは遠い目をして、

「あの人、まだ諦めていないんですね」

 そう慈悲深そうに笑っていたが、目は仮想敵に対する嫉妬の炎でメラメラ燃え上がっていた。

「シルバーも罪深いねっ」

 とミーティア先生はフェリーチェと一緒にニヤニヤしていた。


 ゲーム大会の内容は、ツルツルの、ベタベタの、脂ギッシュな三つを意識したラインナップだった。狂犬シルバーはおまじないの効果のおかげか、快調に一位をもぎとっていく。ゴミゴミ広場ではニンニク料理フルコース早食い競争で、元のくちゃちゃに加えて公害に近いスメルが漂っていた。しかし、会場と一体になった観客たちは同じスメルをまとって気づいていなかった。

 狂犬シルバーは「おじさんのためのフコイダン液」の入ったビンを頬ずりしてブツブツ呟いていた。不良たちは彼女を気味悪く思い、遠巻きで眺めていた。ハルジオンの方は狂犬シルバーに賭ける人が多く、満足に稼ぐことができなかったがフェリーチェに感謝していた。

「彼女は、なぜ若ハゲ民の希望を踏みにじってもアレを手にしたかったのかな」

 ミーティア先生は真面目な顔でレイくんに聞いた。レイくんは慈悲深き度マックスの目を伏せた微笑みで、

「今回の優勝賞品を欲しがりそうな人が、彼女の性癖にドンピシャだったのでしょう。それを手に入れることで白馬のおじさん王子が迎えに来てくれるんじゃないか。そんな真に迫る想像力の道具がフコイダン液だったのかもしれませんね」

 ハルジオンはフェリーチェの屋台の片付けを手伝い終えて、レイくんに家まで送ってもらった。フェリーチェとミーティア先生は「なんかくささいね」と手を繋いで、走り出した。

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