9品 言い訳
おまじない屋に今日も女性客が一人。
「あなた誰?」
と怪訝そうに聞くララミーに、
「おまじない屋フェリーチェの店主でございます」
とフェリーチェは恭しく挨拶した。ララミーは気のない返事をして、キョロキョロと店内を見回し、誰かを探している。フェリーチェは、こういう素振りをするお客様は、大抵ミーティア先生目当てであることを知っていた。
「恋のおまじないでもお探しでしょうか?」
フェリーチェは慇懃無礼に意地悪く聞いてみた。
「〜〜ちがう!」
ララミーは一瞬で顔を赤らめて、怒った風に店を出てしまった。
「ツンデレの方でしたかぁ……」
フェリーチェは永遠とニヤニヤしていられた。
「今日は久しぶりに外食にしよっか」
とミーティア先生が店の裏から入ってきて、ニヨニヨの止まらないフェリーチェの頬をムニムニした。
フェリーチェたちは外食の前に銭湯に入ることにした。エメちゃんとエミコちゃんも一緒だ。フェリーチェは肩までお湯に浸かって、いつもと違ってほよんとしている。
「今日の夜ご飯はどこがいいー?」
エメちゃんがフェリーチェの頭を撫でて聞いた。
「パンたべたぁい」
フェリーチェは間延びした感じで答える。
「いつも麦餅はいただいているでしょう」
エミコちゃんはもっと珍しいものを食べたがっていた。
「じゃあ、ミーティアくんの食べたいものでいい……」
フェリーチェはとろんとした目で眠たそうだった。
「そうしようかー」
ミーティア先生が壁の向こうの男湯から返事をした。
「ちょ、ちょっと」
わざわざ毎日ここの銭湯に入っているララミーが、彼の声がして辺りを見渡し、フェリーチェを見つけて声をかけてきた。フェリーチェは眠たそうな声で、
「あ、お昼のツンデレのお客様ぁ……」
とばっちり覚えていた。ララミーはツンデレ扱いされて不機嫌になって、
「それって何?」
と聞き返せば、
「そこまで言うなら、仕方なくよっ。仕方なく夜ご飯に付き合ってあげるわっ」
フェリーチェはちょっと元気を注力してテンプレ台詞を提示し、エメちゃんの肩に頭を乗せて溶けた。エメちゃんはハッとして、
「さすがフェーちゃんね。この人よりもツンデレの方がよっぽど素直って言いたいのね」
とほわほわっとしながら核をついた返答をする。エミコちゃんは茹でたこのように顔を赤くしたララミーがこれ以上怒らないように、
「ミーティアさんを待たせちゃダメだからそろそろ出ましょう」
と気を使って、二人を連れて行った。
フェリーチェは二人に純白のパジャマドレスに着替えさせてもらって、ミーティア先生と合流した。フェリーチェは顔が真っ赤でふらふらな危うい足取りで、彼に抱っこをせがんだ。彼は正面から抱っこしてあげて、フェリーチェの肩をスンと嗅ぐと、
「ここの銭湯には酒風呂があるんだけど、フェリーチェが間違えて入っちゃったみたいだね」
ミーティア先生はそう言いながら、抱っこしている腕のちょうどいい塩梅まで彼女を何度も抱っこし直した。
「あら……ごめんなさい。どの花よりもいい香りだったから、エメちゃんが勧めたの」
と反省する。今日の酒風呂は杏子のリキュールであった。
「ミーティアさん……?」
ララミーは久しぶりに見る彼の素顔に、心臓が変な音と速さで不規則に鳴りながらも勇気を出して話しかけた。
「あ、ララミーさん、こんばんは。今日はここまで遠出しに来たんだね、お疲れ様」
とミーティア先生はいつもの挨拶を返してくれた。
「昼にね、ついでにおまじない屋に顔を出したのよ。最近、機械人間で表彰された子がいるって聞いて、私の研究にも何か使えるんじゃないかって顔を出しただけだけど、本当に。そこの女の子にちょっとからかわれたんだけど。今はその文句を言いに来たのだけど寝ちゃっているようね。仕方ないわ。文句を言うのは今度にしてあげる」
今宵のララミーの口はよく回る口だった。
「うーん、じゃあ、この子が起きるまでご一緒する?ララミーさんが嫌でなければ」
ミーティア先生はここまでララミーの口が回って、彼女の目が自分にしか向かわないため、さすがに「なにか話したいのかな?」と察した。
「お願いするわ」
ララミーは好きな人のお誘いに嬉しくて、にやけそうな顔を押さえるあまりしかめっ面で、夜ご飯に同行することになった。フェリーチェは家に帰るまで目を覚まさなかった。エメちゃんはフェリーチェが起きてララミーから小言を貰った瞬間に、彼女を帰らせる気満々だった。結果として、彼女はおまじない屋に顔を出す言い訳が一つできた。
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