7品 プリエラ・クライシス
フェリーチェが久しぶりに小学校へやってくると、クラスメイトがこぞって彼女を囲んで、
「なんで来ないんだ!」
「やる気あるのか!」
とやんややんや文句を言ってきてはもみくちゃにした。
「たった一週間くらいのことで……大袈裟すぎるぞ。お前たちは甲斐性のない者共だ」
フェリーチェはクラスメイトの愛を一身に受止めつつ、言い返していた。クラスメイトはフェリーチェに最近何をしていたのか聞いている。おまじない屋に顔を出してみても不在で心配していたようだ。
「ご来店ありがとうございました」
フェリーチェは彼らに恭しくお礼し、
「ある人の藁人形が自我を持っていて、抜魂の儀を一晩中していたんだ。それは大きな藁人形でな、ちょっと体調を崩していたともいう。あとは普通に中学の方で新入生実力テスト合宿に参加していた」
と近況報告をした。
プリエラは藁人形の話が出て、ぎくりとしていた。クラスメイトは本当に中学校にも在学しているんだと感心して、自我を持つ藁人形ばかり聞いてきた。
「やれやれ、落ち着きたまえ」
フェリーチェはニヒルな笑みを浮かべ、
「まずは藁人形の取り扱いの注意点を話してやろう。お前たちの中に、誰かを恨んで藁人形を使っている者がいる、と別の藁人形が言っていたから直々に教えに来たわけだ」
それを聞いたクラスメイトは顔色を変えた。
「藁人形にも藁人形同士でネットワークがあってな。情報を交換し合い、恨むべき相手は藁人形総勢で念を強くする。このクラスでは一人、藁人形を使って、我々のうちの誰かを呪っているようだ」
プリエラはフェリーチェと目が合った。彼女の心臓が早鐘を打つ。クラスメイトは互いの顔を伺っている中、プリエラはフェリーチェにじーっと見られていて、(見透かされているんじゃ?)と疑問を持つより確信を持たれている。プリエラは彼女の居ぬ間に築いた、頼りになる転校生としてこの場をまとめなければいけないが、頭が真っ白で「怖いねー」と友人たちを機械的に励ましていた。
「その藁人形は……」
プリエラは自分の名前が出たら反論できる心構えをした。
「その藁人形は不完全なせいか、呪っている本人にかえってきている。これ以上実害を出したくなければ、おまじない屋フェリーチェまで」
とフェリーチェがクラスメイトをまとめて落ち着かせた。
「ばっかじゃねえか!」
男子たちがあんなに不安がっていたのにすっかり安心して笑い飛ばしていた。プリエラはフェリーチェに無実を訴えるために勝負に出た。
「家宅捜査してみない?」
そう提案したら、彼らは楽しそう、と同意した。
「わたしは店で報告を待っているぞ」
フェリーチェは愉快そうに不参加を申し出た。
プリエラは自身の家宅捜査が始まった時、藁人形をパンツに隠して、その後捨てた。友人にペットの居場所を聞かれたが、
「ある人に譲ったの」
と嘘をついた。『誕生日図鑑ハンディ版』も『願いが叶うはちゃめちゃハピハピブック』もみんな捨てた。しかし、人気が落ちる呪いをかけた藁人形を捨てても、呪いは捨てられなかった。
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