5品 転校初日のカリスマ小学生

 とある小学六年生のクラスに転校してきたフェリーチェという少女。しかし、制服は中等部のもので、クラスメイトは彼女に釘付けだった。もう一人の転校生のプリエラがいて、彼女は前の学校で人気者であったが、どうしてもフェリーチェのカリスマ性に人気が届かなかった。そんな転校初日の話である。


 プリエラは女子から誕生日を聞かれて、

「5月1日の花祭り。全ての花の女神に愛される日に生まれたんだ。あなたはいつ生まれたの?誰に愛されているか知れるかも♪」

 と『誕生日図鑑ハンディ版』を鞄から出して聞いていた。フェリーチェももう一人の転校生として気にかけていて、

「誕生日が二つあるんだけど、わたしを取り合う女神の名前だけでも教えておくれ」

 と口を開けば、クラスメイトの興味を二つの誕生日にかっさらった。プリエラは急いでフェリーチェの誕生日を調べて、『ニゲラ』と『サクラ』という女神に愛されていると話の中心にねじりこもうとする。プリエラは二柱の解説を始めようとしたが、また、あの女が口を開いた。

「ニゲラ……?ああ、シュヴァルツ・ザーメン・グラース大佐のことか」

 クラスメイトは「大佐?」と首を傾げる。

「シュヴァルツ・ザーメン・グラース大佐は女神の港町で軍神をしていて、『ニゲラ』という単純な名前を嫌っているんだ。とにかく気難しい女で、わたし相手でも容赦しない強面に恥じぬ強面気質をしている。彼女の前では絶対に『ニゲラ』と呼んではいけない。こちらに銃口を向けて、激しいタネマシンガンを放ってくるからな」

「じゃあ、サクラっていう女神は……?」

 周りの好奇心を感じ取った一人が代表して聞く。

「あれは楚々とした女だが……ちょっと曲者だ。サクラは自分を崇高な存在に仕立て上げることに熱心だ。サクラは自分に似たクローンを何柱か作り上げて、何もしていないのに『何かすごいことをした』とクローンに広めさせているんだ。まあ、いわゆる腹黒清楚だな。白が際立つほど黒に染っている姿は美しいが限度がある。最近問題になっているんだよ」

 フェリーチェもこの二柱の間で取り合いが発生しているなんて知りたくもなかったみたいだ。

「俺の女神の話も聞かせてよ!」

 サクラについて代表して聞いた男子が食いつけば、フェリーチェは時間の許せる限りであればよかろうと、プリエラの本でまずは女神を知るように促した。プリエラは彼女にフォローされたと感じて、人気者だったプライドが刺激された。


「ペットがいい子にしているか心配……」

 とプリエラは溜息混じりに呟いた。女神の話のキリがいい所で落ち着いたタイミングで。

「触りに行きたい!」

 と女子たちはすぐさま食いついた。フェリーチェは紅茶優雅にいただきながら、

「わたしも放し飼いだけど飼っているよ」

 と乗っかってきて、プリエラは内心馬鹿にして聞いた。

「家で飼っていないの?」

「ああ、あの子はトワイライトでも一緒だったが、そろそろ婿探しをしたい、と常々言っていてな。わたしは、お前なら人間に擬態して種を残すことができよう、と助言したんだがな……」

 クラスメイトは彼女のペットの答えが何か、紅茶で口を潤す姿を固唾を飲んで待った。そして、再び口を開き、

「シソが人間になるのはちょっと違う、と首を振るんだ。シソさんは小鳥だから鳥の多そうなここで婿探しをしたいと連れてきた。だから、今は放し飼い。もう一匹の子と近況を待っている日々だ」

「え、動物と会話できる感じ?」

 1月5日生まれの『メンタルヘルスが常に危険信号の恋愛狂クロッカス』を女神に持つコギャルが聞いてきた。

「わたしこそ動物翻訳機そのものを体現しているな」

 とフェリーチェは普通に頷いた。男子が魚の泳ぐ水槽を指さすと、

「それは海神に聞け」

 と首を横に振れば笑いが起こる。別の男子が蝶の幼虫を指さすと、

「それは花園の主に聞け」

 とまた首を振れば、この翻訳機は生き物全般でなさそうだと結論が出た。

「そもそも檻に閉じ込めた生き物の声など聞きたくない」

 フェリーチェの悲しげな表情にクラスメイトも同意した。プリエラは自分がペットを家に閉じ込めているようなニュアンスに感じられて心は嵐だった。


 動物の話がしんみりした感じで終わったため、プリエラは空気を読んだように『願いが叶うはちゃめちゃハピハピブック』を取り出して見せた。男子たちは露骨に興味を失っていたが、フェリーチェ含む女子には好感触だった。

「わたしもこの本を持っている」

 と例の女が言えば男子たちに、

「フェリーチェもおまじない好きかよ」

 と呆れられるが、フェリーチェは気にしていない。

「そりゃそうだ。わたしのジョブはまじない師兼未来予知師だからな」

 と明かせば、驚かれる。プリエラは何度も自分が目立つ場面を奪われてトゲトゲしく、

「それって自称じゃない?」

 と嫉妬をぶつけた。フェリーチェは制服のジャケットの裏を見せた。そこにはプロフェッショナルに選ばれた者しか付けられないピカピカの勲章があった。

「わたしは愛待ち街でおまじない屋を開いていてな。おまじないは人の純真さが通じてこそ、本当のおまじないだと常々思っている。その本の内容は正直言って申し訳ないがデタラメだ。しかし、子供たちを楽しませたい気持ちが伝わるから好きな本だ」

 フェリーチェは気持ちのいい笑顔で周りを見渡した。

「お前たちにもできそうなおまじないがあるといえばある。いつ入荷するかは分からないが、その時はおまじない屋フェリーチェに来るんだ。友情料で安くしておくよ」

 と上から目線だが、なぜか面白さを引き立たせていた。ちなみに、フェリーチェは占いもできるが、「当たり過ぎて怖い」と土地を追い出された過去を持つ。最近、未来予知師として認められて苦労が報われた。彼女は必ず当たる占い方法をいくつか知っているが、

「お前たちに教えるにはまだ早い。精進せよ」

 とあらかじめ断っておいた。


 転校初日のフィナーレに、フェリーチェはミーティア先生にお姫様抱っこをしてもらい、「アデュー」とクラスメイトにウィンクして帰った。その颯爽とした驚きに包まれた教室は、

「あいつ、なんなんだよ!」

 とフェリーチェ一色で大盛り上がりであった。プリエラは挫折を覚えずにいられなかった。フェリーチェの勝因は自然体すぎるのだと思う。

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