4品 慈悲深きレイくん
「お邪魔します、ミーティア先生」
「いつでも大歓迎だよ、レイくん」
ミーティア先生の長年愛待ち街で連れ添った大親友のレイくん。彼は、この街のボロボロアーケードの66番地にあるボロ教会で、自称大神官をしている。今日は雨が降っていて教会では雨漏りが酷く、彼は一向に掃除が捗らないと、ミーティア先生のいるおまじない屋に避難してきた。
彼はお土産に果物のバーミアンを持ってきてくれた。その果物はおしりの形をして、果肉まで真っピンクであった。
「今日はどうやって手に入れたの?」
とミーティア先生が聞けば、
「追い剥ぎからもぎ取りました」
とレイくんはぬるめの緑茶を飲んで爽やかに先程の武勇伝を語った。
「それからボロボロ果樹園に送りました」
そして、彼はさらなる果実の繁栄を願っていた。
「果物、好きなのか?」
とフェリーチェが聞けば、彼は頷いて、果物に対して並々ならない思い出を話してくれた。
彼は小さな頃、ある習い事をしていた。習い事は厳しくて大怪我をしてもおかしくなかったが、終わった後に、年上の美しいお姉様が剣で切り捌いてくれた不格好な果物を食べるのが至福の時間であった。彼女の剣はいつも謎の体液がついていて、他の子たちは食べたがらない。さらに、彼女はなんか殺気立っていて怖い。子供たちは習い事を終えると、怯えて散るように逃げてしまった。レイくんは毎日お姉様を独り占めできたそうだ。
レイくんはそのお姉様と十三年後に婚約した。彼女は自分に婚約を申し込んでくる男がでてきたことに大層驚き、いつもの業務をほっぽってもの好きな男の顔を確認してきた。
「わたくしの好みの男じゃないわ」
とレイくんを見るや否や断ろうとする。しかし、レイくんは、
「あなたの好みの男なんて、この世界中のどこを探しても見つかりませんよ。きしょいおじさんは滅びました」
と現実を突きつけて、彼女と婚約できたが、その結果愛待ち街に逃げられたので追ってきたという。
「何度聴いてもドラマチック〜」
ミーティア先生は夢見る乙女になった。レイくんの話を聞いている中、フェリーチェだけミーティア先生が切り分けてくれたバーミアンを食べ終えてしまった。彼は果物に執着していると明言する割には、バーミアンに手をつけていない。いや、レイくんは年上の美しいお姉様、現婚約者の切ってくれる果物を食べる日が来るまで果物に執着し続けるだろう。
フェリーチェはそれを試すべく、レイくんにバーミアンのオカワリをしたいと手を差し出した。
「はい、王様」
レイくんはしずしずと懐から程よく凍ったバーミアンを出して、渡してくれた。
「いい感じに溶かしておきました」
フェリーチェは美形の体温で溶けた果物なら食べられる気がした。
レイくん曰く、婚約者は未だにきしょいおじさんを探してさまよっているらしい。しかし、彼はその奔放さに慈悲深く許している。ただ、きしょいおじさんには容赦なし。彼はうっかり屋さんだから、うっかりと腰のある剣で人を斬った数はマチマチだそうだ。
「それはほんの百年前くらいの、心のやんちゃが抑えられなかった昔の話ですけどね……」
レイくんの慈悲深くも自分勝手な制裁者の顔が見える昔話が始まった。その間もバーミアンは放置されていた。
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