2品 ミーティア先生

「ミーティア先生が最近、ずっと連れ回しているあの子……誰なんだろう」

 うーん、と職員室にいる者共が大合唱をした。


「ミーティア先生とあの少女は同じ黒髪ダ。キューティクルもよぉく似ている。彼女はミーティア先生の親類の子ダ」

 そう推理する異国情緒サラマンダー部の顧問ランラン先生。しかし、ミーティア先生は最低三百年は生きている大魔法使いで、人間というには怪しい人だ。兄弟姉妹もいない、結婚もしていない、世界中のどこを探しても血縁者がいないという噂だ。

「あ、その点で思い出しましたぁ〜」

 夢きゃわわプリズム部の顧問兼恋愛漫画家のシフォン先生は、ミーティア先生から相談を受けたことを思い出した。

「何も事情も聞かずに教えて欲しいのですが、小学六年生から中学二年生にかけての、女の子をターゲットにした、夢きゃわわな部屋着やパジャマを売っているお店を知りませんか?」

 と彼から真面目に聞かれたことを誇りにしていた。ちなみに、シフォン先生は夢きゃわわ初心者向けの無難に可愛い店『デオ・ド・ランド』を勧めた。

 シフォン先生の証言により、ランラン先生の推理する「少女は先生の親類の子ダ」説は不思議と真実味を帯びてきた。ミーティア先生はずっと姿かたちの変わらぬ永遠の19歳。この年頃の子はイロイロと遊びたがり屋に決まっている。隠し子がいてもおかしくない。

「残念なことに、ミーティア先生が公序良俗に反した遊びをしている噂は一切聞かない。一個もない。悲しいことに一個も」

 彼の名誉が傷つく前にフォローに立ち回るアイボリー先生。ミーティア先生との関係は世間話をする程度。ちなみに所属は天パお悩み相談室の室長だ。確かに、ミーティア先生に出会う女たちは、女としてのプライドが傷ついてしまうくらいに、悔しいことに彼に意識されたことがない。

「あんな仮面だけの男、どこがいいのですか?」

 とおこさま裁判所帰りのアステル先生が美貌を鋭くして、大きな胸を持ち上げるように腕を組んだ。彼女はいつもミーティア先生にライバル心を抱いている。最近は特に、いたいけな少女を連れ回しているから不愉快でたまらない。アステル先生の尾行によると、彼が少女を連れ回すのは一度や二度じゃなく、四六時中一緒にいるようだ。

「少女の前世がミーティア先生の大事な人だったんだわぁ〜」

 とシフォン先生はそう想像を膨らまし始めた。それに反応したのが、世界超常現象調査隊の隊長であるロクサレヌ先生であった。前世に関する昔の文献から、周期がバラバラであること、しかし、不思議なことに前世で親子だった人が現世でも同じ家族になったり、前世で恋人だった人が現世でも恋人になったり、親友だったりする確率は高いそうだ。ロクサレヌ先生は頭の中でくどくどと説明していた。

「あ、……ミーティア先生本人に……直接聞いてはどうですか?」

 ミーティア先生と話したくて、何かときっかけやネタを探して、見つけては話しかけられないままでいるカミエーリヤ先生が提案する。彼は散歩コースのバリアフリーを目指す会の会長だ。しかし、彼の提案に対して、うーん、と職員室にいる者共が大合唱した。

「なにか、……問題でも?」

 ミーティア先生の孤独を刺激したらどうしようか、と彼らはしり込みしていた。あのアステル先生であっても。

「お疲れ様です」

 ああ、ああだこうだと噂しているうちに本人が来た。彼は少女の手を握ったまま職員室に入ってきた。

「失礼します」

 と少女は先生たちに挨拶して、ミーティア先生に美味しいジュースを持ってくるように、とオネダリして職員室から追い出し、彼の席についてくつろいだ。


 先生たちは謎の少女が穴が空いてしまうほど注目していた。少女も見つめ返してくれたが、過去の資料にあるモノクロ写真に写ったミーティア先生の仮面を取った素顔に全然似ていない。

「君は誰だい?」

 話の発端者であるランラン先生が代表して聞く。

「フェリーチェ・ナーヴェ、まだあだ名はない」

 と少女は素直に答えてくれた。歳は12歳だそうだ。服はここの中等部の制服を着ている。先生たちはさらに素直な少女の情報を掘っていこうとした矢先、ミーティア先生が慌てた様子で職員室に戻ってきた。彼が副担任をしている小学校の生徒一人が高熱を出したらしい。

「やれやれ、行くとしますか」

 フェリーチェは片膝をついたミーティア先生の背中に乗っかって、唖然とする先生たちに手を振った。

「今日の授業は自習にしていてください!」

 とミーティア先生はフェリーチェを乗せて駆け出した。

 アステル先生がたまりにたまりかねて彼を追いかけた。

「その子に殺人ウィルス熱が移ったらどうするの!!」

 と怒り心頭な彼女に教室が一斉に開き出す。ミーティア先生は彼女の剣幕に怯むことなく、

「じゃあ、包丁を振り回す子からこの子を護るのは誰ですか!?」

 と顔を赤くして、廊下の窓から飛び降りた。マナフィリア学園の職員室はおかしなことに四階にあった。

「あの男……っ!護衛対象を危険に晒して……っ!」

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