フェリーチェのおまじない屋さん
にと◎にとべ
1品 フェリーチェのおまじない屋さん
これは、ある魔法の世界の、ある国にある、ある街のおまじない屋さんのお話。
「フェリーチェ、今日もお願いしていいかな?」
これから頑張る人に事が上手くいくようにおまじないをかけてあげる。それがまじない師フェリーチェの仕事だった。このおまじないはその人の額にデコピンして、その人の脳に生まれながらに搭載されている魔力蓄積ポッドを奮い立たせる力技だ。彼女の指に込められた謎の波動が、魔法なしでは生きていけない立瀬にある人々にとって、素晴らしい万力となっている。一回たったの250マネ。
「これができるのは、世界中を探してもわたししかいない」
とこのまじない師は、軽い傲慢と陶酔、そして使命感を抱いていた。
ある日、同胞の仇討ちに燃えるエックスという男が店にやってきた。彼はいつも人当たりがよく、クラスの人気者であった。同胞に何があったのか知らないが、フェリーチェの前でも怒りを隠せずトゲトゲしい態度を取っている。フェリーチェはエックスの名前を聞き出し、律儀にお金を貰ったが、何の関係もない人にまで八つ当たりするとは相手が客といえども嫌な気持ちになる。フェリーチェのデコピンはいつもより強めであった。彼の魔力蓄積ポッドが脳震盪のように揺さぶられた。
そのおまじないからエックスは変わった行動をするようになった。彼は食用油をがぶ飲みし、周りが引いている中、「もっと、足りない」と油の乗った唇を舐め回す。黒いオイルで満たしたバスタブに、彼は肩まで浸かって、「火のよーじん、火のよーじん」と拍子木をカンカン鳴らし、同じアパートの住民からガス臭いと大騒ぎになった。さらに特徴的なのは、エックスの人当たりの良さが際立つ正気と正気に挟まる
「これはもうダメですね」
エックスはこの街で別世界からの侵略的スパイと分類される「機械人間」であった。彼は脳機能の熱暴走が原因でスパイ行為がバレてしまった。エックスには人間の彼女ワイちゃんがいたが、彼女はおかしくなったエックスの頭をぽかっと殴り、
「私を騙していたのねっ!機械人間めっ!私を騙して嗤っていたんだわっ!」
と泣きながら嘆き、友人たちに慰められていた。エックスはその破局の音を二度と知れなかった。
愛待ち街の自警団と技術団によるエックスの尋問で判明したことは、彼は対フェリーチェ用兵器であった。尋問官はフェリーチェという人を知らなかったが、エックスは彼女の住所を細々と教えてくれた。
彼がおまじない屋に顔を出した理由をロボロボとした機械音で話す。しっかり結論から言ってくれた。彼はこの街に来たばかりのフェリーチェを調査し、元いた世界に報告することが目的だった。エックスら機械人間の目には生命力測定器が搭載されていて、彼の同胞がフェリーチェを一目見ただけで一時失明してしまった。この事例からフェリーチェを危険人物として、リーダーのエックスが自分たちのできうる限りの技術を用いて、短時間で兵器として仕上げ、彼女を直々に退治しに行った。その流れで返り討ちにあったわけだ。
尋問官は返り討ちにする方法を知りたがり、エックスの頭をいじくり回した。機械人間は普通の人間と判別が難しい。フェリーチェはその見分け方を知らなくても会得しているのだ。ロボットはまじない師におまじないをしてもらったことばかり話すが、ただデコピンされただけで、なにか引っかかる所はない。痺れを切らしたロボットが一瞬だけ正気を取り戻し、
「だから、デコピンする指に飛んでもない生命力を入れられて壊れちまったんだよ!」
とエックスは遺言を残し、絶命した。男の終わりは凄絶なものであった。
エックスは近い将来ハンマーで解体され、彼の脳から腸までの臓器は学園用スマホの永久機関半導体に加工されてしまう。そのスマホは来年、学園に入学する子供たちに配られる予定だ。街の人からすると、機械人間はやっかいな侵略者ではなく素材として見られていた。機械人間という獲物を得た時、彼らはおこさま王宮の処刑広場で見世物の一環として解体ショーを開くそうだ。機械人間からマナフィリア人は蛮族であると元の世界に多数の報告をし、エックスの同胞たちはここから逃げ出すための準備を始めていた。
「すごーーーい!」
機械人間を判別し、退治した、まじない師フェリーチェ。彼女は愛待ち街自警団から感謝状をもらい、新聞の二面の小さく載っていた。デコピンが武器なのはどうも腑に落ちなかったらしい。しかし、フェリーチェはおまじない屋さんを無料で宣伝できたことを喜ばしく思った。
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