第7話 お嬢様、思い出しました!
お嬢様と公爵の時間を邪魔してはならないと静かに部屋を後にした俺たちは、それぞれにホッと息を吐いた。
「本当に良かったです……ジュリーさんが解雇されなくて」
まるで自分のことのように目を潤ませて喜んでくれるクロエさん。その姿がまた姉ちゃんとえらいギャップがあって苦笑いしか出ない。
「あー……でも、それに関してはまだ分かんないですねえ」
「え? でも、お嬢様はジュリーさんを解雇しないと」
「や、お嬢様はああ言ってたんですけど、私、その前にメルセンヌ公爵に………………ん?」
公爵にタメ口で暴言を吐いたことを思い返したところで、俺ははた、となって立ち止まった。
メルセンヌ公爵。
クリスティアーヌ。
あの特徴的なドリルヘアー。
……魔法。
ばらばらのキーワードが突如俺の中でカチリと嵌り、ある記憶を蘇らせる。
「ジュリーさん? ど、どうかしましたか?」
「……お嬢様は、クリスティアーヌ・メルセンヌ公爵令嬢……ですか?」
「え? は、はい……それが、どうかしましたか?」
おずおずと答えたクロエさんに、俺は心臓がどくどくと早鐘を打つのを感じながら、恐る恐る尋ねた。
「お嬢様は……『シャンスのラピュセル』、ですか?」
クロエさんは姉ちゃんそっくりの青い目を瞬かせ、やはりおずおずと頷いた。
「え、ええ……そうですけど、ほ、本当にどうしたんですか?」
「……」
「ジュリーさん?」
「……っ、ごめんなさい、クロエさん、俺、用事思い出したので、部屋に戻ります! 今日はありがとうございました!」
俺は無理矢理笑顔を浮かべて頭を下げると、逃げるように自分の部屋へ駆け出した。
驚いたらしいクロエさんの呼びかけは聞こえていたが、それに答える余裕はなかった。
思い出した! クリスティアーヌ・メルセンヌ公爵令嬢! シャンスのラピュセル!
それらのキーワードは全部、『ヒストワール・デ・ラピュセル』という一つの物語――いや、女性向け恋愛シミュレーションゲームのもの。
略して『トワラピ』と呼ばれたそのゲームは、俺『相馬樹里』が何十時間とプレイしていたもの。
そう、フィクションだ、二次元の世界だ!
なのに俺は、何故かその二次元の世界にいる! しかも、『ジュリー・メレス』とかいう女装癖があり、『トワラピ』に登場するヒロインのライバルキャラクター『クリスティアーヌ・メルセンヌ』の家の使用人として!!
自室に閉じこもると、俺は頭を抱えて呻いた。
ヤベエ。今世の俺も、長生きできねえかも。
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