第3話 鉄仮面

ある日、世界中の人間に鉄仮面がつけられた。

重くなく、キツくなく、食べ物だって普通に食べられる。


しかし、顔だけは絶対に見えない。


生まれてから死ぬまで、他人の顔は絶対に見えない。

生まれたての赤ん坊すら鉄仮面をつけているんだから驚きだ。

何故こうなったのかは科学者もお手上げ状態、神様の思し召しというやつだ。


顔が見えないからか、次第に顔への興味は減っていった。

アニメや漫画の顔は見ることができるが、みんな凡顔になった。


恋愛はもっぱら声が1番大きな要因になった。

化粧に気を取られなくて良いので、皆が時間を守れるようになった。


1番の良いことは、金属アレルギーがいなくなった事だ。

生まれる前から鉄仮面なおかげか、皆がアレルギーにならなかった。


悪くなったこともある。みんな鉄仮面なせいで人違いが増えた。

鉄仮面ノイローゼになったって人もいた。

にらめっこなんて出来やしない。


しかし、顔で判断されたり、格差ができたりし辛くなったので、いじめが減った。

電車を見ても痴漢とかの性被害も減った。

基本的に皆幸せだった。


鉄仮面のおかげである。



ある時、1つの病が流行った。


空気、接触、血液なんでも感染るし、感染したものはいきなり死んでしまう。


熱もなく咳もない。しかし感染者かどうかを見極める方法は簡単だ。

感染者は顔に青い筋が浮かび上がるのだ。


科学者たちは鉄仮面の研究を急いだ。


そしてついに全人類から外すことに成功したのだ。


こうなれば感染者は一目でわかる。

たちまち抗体を作って全世界から病原体を死滅させた。

驚くことに、この抗体はそこら辺の痛み止めと同じ成分だったのである。


鉄仮面を外さなくても、誰かがこれに気づいただろう。


さて、少しのことで人間は変わらない。

再びアニメにはイケメンが出てきたしいじめも増えた。


研究によって鉄仮面を外した科学者は時々考える。

あの時実験が失敗していたら、どんなに良かっただろう、と。

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