第7話 富士山を下りる 2
俺と
「なあ神楽」
「なんだ?」
「今更だが黒蛾を避けて下るっていうのじゃだめなのか?」
「道でもないところを下りながら
「絶対に遠慮させてもらう」
「なら早く行くぞ」
そうして話している内に黒蛾の元へたどり着いた...たどり着いてしまった
「あれが黒蛾か...少しきれいだな」
「ああ、見た目だけはな」
そこにいたのは名前の通り黒い羽を持った蟲だった
その羽は黒に金や銀の斑点がある
蛾と言うよりは蝶といったほうがいいのではないかと思うぐらいにはきれいだった
しかし、だ
やはり大きさがとんでもなく大きい
羽を除いた本体だけでも人間の子供のような大きさがある。
羽まで入れたなら4~5メートルはあるのではないだろうか
「大きさが半端じゃないな」
「あれでも黒蛾のなかでは小さい方だ」
「まじかよ...ちなみに黒蛾は蟲の中ではどれぐらい大きいんだ?」
「かなり小さいほうだな」
「嘘だろ」
...あれで蟲のなかでかなり小さい方、しかもその中でも小さいのかよ
「黒蛾が
「わかったな?」
「ああ、わかった」
「よし、好きなタイミングで行っていいぞ」
「行きたくねぇ」
5分ぐらい経っただろうか?
「早く行かぬか。
これで2回目の催促だ
行くしかないか...
俺は覚悟を決めて黒蛾の目の前に飛び出した
黒蛾もこちらに気がついたようだ
「いつもの訓練通りに...」
俺は刀を
黒蛾目掛けて飛んでいき刀を構え全力で突く
...がもちろん弾かれる
むしろ傷が付く様子もない
「クソ硬え!傷すら付かねえじゃねえか」
「
そんなことは理解している
羽の付け根、触覚のような物
思いつく場所を切りつけていた
一向にダメージが与えられない
黒蛾が羽を振った
たまたま少し離れていたから避けることができた
本当にたまたまだ
「なんつう威力だよ。風だけで吹き飛ばされそうだぞ!?」
「当たらなくてよかったな、祐樹よ。貴様が今のを食らっていたら20メートルは吹っ飛んでおった」
「何が鱗粉だ警戒してればいいだ!」
「一番危険なのが鱗粉で確実に死ぬのはそれぐらいだと思ったからだ」
今ので鱗粉以外でも普通に死にかねないと理解した
本当にヤバそうだな...
こんなに緊張するのは初戦以来だ
黒蛾が羽を振って風を起こしてきた
前を向いて目が開けられない
「しゃがめ」
「神楽!?」
《しゃがめ》そう神楽が言った
俺は神楽を信じてしゃがむ
そのすぐ後に上を黒蛾がものすごい速度で通っていく
「あぶねえ」
「でも神楽が戦闘に口を出してくれたのって、なにげに初めてじゃないか?」
「ああ、基本的に口を出さないようにしているからな」
「なんで口を出さないようにしているんだ?あと今口を出してくれたのはなんでだ?」
「口を出したら成長しないであろう。咄嗟の判断など経験が全てだ。妾の指示に従っておったところで何も成長せん。それに......まだ言い足りないが今じゃないな。それと、なぜ今口を出したかって?そんなのあのままだと確実に死ぬと思ったからだ」
「あのままだと確実に死んでたのかよ...」
「ああ、確実にな」
「怖すぎるだろ」
もう一度全力で黒蛾を殴る
...傷一つ付かない
「なあ神楽」
「何だ?」
「俺とこいつの力量差を見るって言ったよな?」
「ああ、言ったな。今も見ておるぞ」
「傷一つ付かない、これ以上に力量差をどうやって図るんだ?」
「ああ、それか。今はどれぐらい避けれるかを見ている」
「だから黒蛾が鱗粉を出すまで戦え」
「できる限り攻撃を避けろ。もちろんダメージが無くても攻撃し続けろ」
「相当きつい注文だな。まあ頑張ってみるよ」
「ああ、頑張れ。死ぬ気でな」
「もう死ぬ気でやってる」
黒蛾の羽の端が4枚の羽の一部が剥がれて破片となった
そしてそれが飛んできた
「っ!痛って」
若干反応が遅れた
しかし避けたつもりだった
だが飛んできた4枚の破片の内1枚が左腕に刺さった
「神楽、これは大丈夫なのか?」
「身体強化は治癒力も強化する」
「今すぐには無理でも終わった後身体強化を使って安静にしていれば治る。なんなら切られてすぐなら腕もくっつけることができる」
「そんな長い時間身体強化を使ってたら死にそうだがな...」
「身体強化を使っても辛いだけだ。安心しろ」
...左腕で良かった
一番戦闘で使わない
まだ戦える
また黒蛾が羽の破片を飛ばしてきた
...が今度はしっかり避けた
しかし避けた先に黒蛾が飛んで来た
それをスレスレでしゃがんで避ける
避けるときに刀を突きつけてやった
「おっも!?」
もちろん切れるずも無く......と思って見てみれば少しだけ切れている
あんなに硬かった胴体が、だ
「あいつの力を使えば傷をつけれた...」
「祐樹、すごいな!今日で傷を付けられるだなんて思ってもいなかったぞ!」
神楽もかなり驚いている様だ
「あいつの力を使ってだけどな」
「それでもだ。黒蛾に傷を付けたことには変わらない」
そう言って認めてもらえると少し嬉しい
「よし、まだ行くぞ」
その時黒蛾の周りが少し輝いて見えた
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