第6話 富士山を下りる 1

ん...


全身が痛い


身体強化を解いた後の記憶がない

俺は起き上がろうとしたが身体が痛くて動けなかった


「おお、祐樹ゆうき起きたのか」


そう言って神楽かぐらが話しかけてきた

どうやら看病してくれていたらしい


「ああ、起きてるだけだけどな、痛くて動けそうにない」

「俺は何日寝てたんだ?」

「3日だ」

「嘘だろ...」

「まあ戦ったのも初めてだしな。運動してない人がマラソンでも走ったようなものだ」

「そのたとえでどんだけ大変かがよくわかったよ」

「そうか、それは良かった」

「......」

「まぁ身体強化に慣れるまでの辛抱だ」

「この疲労感も身体強化に慣れればマシになるのか?」

「いや、その疲労感は妖炎を使い過ぎたせいだ。もっとも身体強化での疲労も絶対にあるだろうがな」

「そういえば体力とは別の何かって言ってたな」

「どれぐらい慣れたら大丈夫になるんだ」

「長時間戦ってほぼ無くすには...まあ100年ぐらいあればできるだろう」

「俺死んでるじゃないか」

「何を言っておるんだ?」

「だから100年後には死んでるって」

「殺されていないなら死んでないぞ」

「は?」

神刀しんとうになった時点で年をとらない」

「何だそれ、何も聞いてないぞそんなこと」

「説明するのを忘れておったな。この世界では常識のようなものだからな」

「まぁ戦うのが1〜2時間でいいのならば数年で慣れると思うぞ」


...色々ありすぎるだろ

身体強化をほぼノーリスクで使えるようになるのは100年後

100年...寿命で死ぬと思ってたら神刀になったから年を取らない!?


「情報を整理するのが辛いわ」

「諦めろ祐樹がいたのは刀がない世界だ、刀について何も知らないだろう」


本当にいろんな情報が後から出てきそうだ


「俺以外にも過去から来たやつはいるのか?」

「知らん......が、まあ十中八九いるであろうな」

「会ってみたいな」

「殺しにかかってくるかもしれないがな」


一気に憂鬱になった...

そうだここはこんな世界だ


「他の神刀に会うときには殺されないぐらいには強くなっとけ」

「無茶言うな。何年かかるんだよ」

「全力でやって5年ほどだろうか」

「他の神刀に会うのはどれぐらいになりそうだ?」

「早ければすぐ、遅ければ数十年後じゃないか?」

「まあ数年もあればほぼ確実にで会うだろうけどな」

...それ確実に死なないか?


「神刀に会った時どうしたら良いんだよそれ」

「殺しにかかって来るとは限らんだろう」

...それもそうか


「もし殺しにかかって来たら...どうしようもなければ守ってやる」

「守ってくれるのか?」

「どうしようもなければ、だ」

「まぁ今他の神刀が殺しにかかってきたら祐樹は確実に死ぬがな」

「ひどくないか?」

「事実だ」

「辛辣だな...」

「そんなことになる前にもっと戦えるようになっておけ」


そう言って神楽は立ち上がった


「まさか今からやれとは言わないよな?」

「もちろん今からやるつもりだが?」

「寝込んでて今さっき起きたばっかだが?」

「起きたのだからできるだろう?」

「違うが!?まだ全身痛いんだが?」

「身体強化を使えば痛くないぞ?」

「それが原因で倒れたんだろうが!」

「...ならば今日は一旦いいとするか」

「ああ、そうしてくれ」


次の日からやらされたのは想像するのも簡単だろう

身体強化の訓練

妖炎ようえんの訓練


具体的には...

身体強化の訓練では基本の体力づくりや身体強化のを使っている状態での身体の使い方。初めて使った時と違い走っていて壁に激突するようなことはなくなった


妖炎の訓練はひたすら燃やしまくって威力と使える量を増やした。それと刀に妖炎を纏わして切って妖炎だけを飛ばすことができるようになった。

まぁ飛ばせると言ったってせいぜい1メートルなのでそんなに使わないだろうが


......それにしたって何回倒れただろうか


―――――――――――――――


そうして1ヶ月が過ぎた

1ヶ月の間に飛蟲ひちゅうも2回襲ってきた

無論初戦の何倍も楽に勝てたが


「そろそろここから降りてみるか?」

「唐突だな...でもたしかにそろそろ降りてみたいな」

「なら降りてみるぞ」

「でも何で今なんだ?」

「...途中に飛蟲より何倍も強いむしがいる」

「は?」


嘘だろ...

飛蟲ですら苦戦しているというのに


「......一応聞いておく、どれぐらい強いんだ?」

「貴様にわかるように伝えるなら...そうだな飛蟲の10倍ぐらいは強いんじゃないか?」

「10倍って...無理だろ」

「しかも今の貴様と相性がかなり悪いはずだ」

「相性が悪いって?むしろ相性がいい蟲なんていないだろ」

「貴様が飛蟲を倒せたのは飛蟲の強い部分が外骨格のような強い蟲からみたら小細工のようなものだからだ」

黒蛾こくがは飛蟲と違って純粋に強い」

「黒蛾って言うのが途中にいる虫の名前か?」

「ああ、そうだ」

「倒せないだろうがどこに気をつけるべきか聞かせてくれ」

「言ったら意味が無い......と言いたいところだが、どうせ倒せないんだ死なれるよりマシだ」

「まず黒蛾と戦う大前提だ。これがなければ今の段階で戦わなかっただろう」

「黒蛾は基本的に自身が決めた土地から動かない。なぜかは知らないがな」

「つまり負けそうになって逃げ出したとしても追ってこないってことであってるか?」

「ああ、そういうことだ」

「だから圧倒的に強くても戦おうってなったのか......ほんとに俺死なないか?」

「全力で戦えば死なないであろう」

「ただし全力で戦えよ?」

「黒蛾との力量差を図るために戦うのだ。軽く戦うだけだと全く意味がない」

「だから文字通り死ぬ気で戦え」

「俺は戦う時いつだって死ぬ気だよ。何回死ぬと思ったことか」

「それならいい」

「改めて黒蛾の特徴を説明しよう」

「まず羽は飛蟲の外骨格より硬い」

「...は?ただの羽が?」

「羽が、だ」

「貴様には切れない。羽を切って黒蛾を落とそうだなんて無理なことは考えるなよ」

「考えねえよそんなこと」

「戦闘で1番気をつけるべきは鱗粉りんぷんだな。」

「鱗粉?」

「ああ、それにさえ気をつけていれば死ぬことは無いだろう」

「逆にそれは死ぬ可能性があるってことだな?」

「ああ、何種類かあるが今の貴様が吸ったら死ぬぞ。間接的な理由かもしれないがな」

「どんなあるんだ?」

「全部避ける必要があるのにいるか?」

「ああ、知りたいだけだ」

「例えばだな...麻痺、毒、目眩、幻覚、このあたりは黒蛾の鱗粉の効果として有名なところだな。毒以外は直接的には死なないが動けない間に殺されるだろうな」

「うわ、聞いてるだけでヤバそうだな」

「満足したか?それならいくぞ」

「...いかないとだめか?」

「今じゃなくてもいいが、いつかはいかないといけないぞ。それに今日の目的は力量差を見るためだと言ったはずだが?」

「わかったよ」

「じゃあ行くぞ、ついてこい」

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