第3話 蟲が来た 1

祐樹ゆうき、起きておるか?」

「......祐樹!」


どうやら神楽かぐらが起こしに来てくれたようだ


「神楽、おはよう」

「昨日言っておった服ができたから伝えに来た」


どうやら本当に1晩でできたらしい

だがどこにも見当たらない


「どんな感じなんだ?服があるようには見えないが」

変化へんげに組み込んでおいた」

「...と言っても祐樹はずっと変化しているようなものだから着ようと思えばいつでも着れるはずだ」

「それはかなりありがたいな」

「妾の着ているのと似ている感じになったがそれで良かったか?」

「ああ、それで大丈夫だ。ありがとう」

「早速着てみるか?」

「う〜ん、そうだな、着てみるか」


変化と同じ感覚で使ってみる

前回の変化と同じように光りに包まれる

そうして神楽が着ているものと同じように白を基調に作られた和服を身にまとう


「おお、着心地がいいな」

「気に入ってくれたようで何よりだ」

「なんか嬉しそうだな」

「当たり前だろう、それなりには苦労したのだ。それに作ったものを褒めてもらって嫌な人はいないだろう」


そう言って神楽は微笑んだ

...可愛い

そう素直に思った


―――――――――――――――


俺は3000年後の未来に来ている。

じゃあ過去に戻れるのだろうか?


「なあ神楽」

「なんだ?」

「俺は過去に戻れるのか?」

「妾が何でも知っていると思っているのか?」

「やっぱりわからな―――」

「...基本的に時間は不可逆だ」

「...そっか」

「神が閉じ込められている刀を集めたら戻れるかもしれないがな」

「もっとも貴様の見た空がすべての原因だ、今のまま戻ったところで意味がないだろう。戻るならば根本を解決してからだ」

「じゃあ最終的な目標は根本を解決して神のかみのかたなを集めることだな」

「もっとも、そんなに簡単に根本から解決していたら3000年も経ってないがな」

「まぁ、うん。そうだな」

「それは置いといたとしてもむしについても説明しないといけないな」

「蟲...か」

「ああ、貴様も見ていた空が壊れた瞬間から現れた。それこそ10年ほどで空は治ったが蟲は分裂して今も増え続けている」

「弱い蟲ならばそれなりに戦える神刀しんとう1人で倒せるだろう。だが強い蟲に対しては、かなり戦える...それも神の刀を持った神刀数人で当たらないといけないような強さだ」


この前は初心者とも言えないほどらしかった

岩を切ったあの時ですら...だ


「戦いたくはないな」

「諦めろ。蟲は神刀によってくる」

「今までは呪いで近づいてこなかっただけだ、すぐに戦うことになるだろう。少しでも戦えるようになっておくか?」

「そんなことができるのか?」

「ああ、少なくとも数日はあるだろう。その間に身体強化に慣れておけ」

「神楽...指導してくれないか?」

「いいぞ、他にすることもないしな」


―――――――――――――――


「まず身体強化を使ってみろ」

「わかった」


身体強化をしていると体の感覚がまるで違う

全力で飛び上がれば20メートルほど飛べる

戦闘でこんなことはしていられない

まずは身体強化に慣れることから始まった

...それすらものすごく大変だとは思いもしなかったが


まず体力を調べるために全力で走らされた

身体強化は本当にすごい。人間とは思えない速度、具体的には100メートル3秒ぐらいで10分ほど走り続けられた。少し落とせばもっと走れそうだ。

身体強化ってすごい!

......だけで終わればどれだけ良かったか。

身体強化を解いた反動がものすごかった

全身の焼けるような痛み

何日も走り続けたような疲労感

まぁ時速百何十キロで10分も走り続けたから当たり前とも思えたが...

神楽いわく「慣れればもっとましになるが少なくとも妾が戦えると思うぐらいまでは戦ったあとにはそれほどの辛さだと思えば良い。安心しろ身体強化の反動が来ているだけだ身体はどこも痛めてないし命に関わることもない、ただ辛いだけだ」と


ふざけるなよ...!

なにがただ辛いだけだ!辛い ”だけ” なわけないだろ

しかも神楽が戦えると思うまでって...何十年かかるんだよ


相応の力はあると思うが...ふざけんな!


そう思ってても仕方がないか


「何もふざけていないが?」

「神楽!?」


どうやら声が漏れていたようだ


「身体強化はそういうものだ今の貴様で蟲と戦うには身体強化になれるしかない。最初は他の神刀も同じようなことをしている。」

妖炎ようえんじゃどうにかならないのか?」

「貴様程度の妖炎でどうにかなる蟲ではない」

「それに今後戦うにしても身体強化を使えないでどうするつもりだ?」


妖炎は普通の火とはちがい俺の体力なんかとは別のエネルギーが使われているらしい

まあ気力や魔力だと思っていればいいか

ちなみにかなり強くなればそれなりの蟲であれば余裕で燃やし尽くせるらしい

今の俺だと1メートルちょっとの小さめの木を燃やし尽くすぐらいだ。それ以上でもそれ以下でもない

弱めの蟲にならば効くがまったくもって倒せるぐらいではないらしい


「続きをやるぞ」

「待ってくれまだ痛みが」

「精神的なものだ。身体強化を使えば関係ない」

「その後が辛いんだよ」

「......」

「神楽?」

「祐樹、来たぞ」

「え?」

「蟲だ」

「...ついにか」


神楽に蟲が来たと告げられた

今までの話を聞いてるを絶望でしかないが...


「神楽、俺は勝てるのか?」

「相手によるな」

「逃げてもいいか?」

「倒さないと追ってくるぞ?」

「まじかよ」

「残念ながら本当だ」


どうやら覚悟を決めないといけないらしい

この短期間で何回覚悟を決めただろうか


「蟲を倒す...か」

「あと10分ぐらいで来るだろうな」

「早いな!?」



そうして蟲が見えてきた

昆虫のような見た目をしている

少しカブトムシに似ているかもしれない

足が6本生えていて身体は茶色い

...似ている、というか見れば見るほどカブトムシに見えてくる

空の割れ目から来たのではなく突然変異しただけにも思える

ただ昆虫と根本的に違うことがあるとすれば...

とにかく大きい

3メートルくらいはあるんじゃないだろうか?

それが飛んでいるのだ

本能的にやばいと感じた


飛蟲ひちゅうだな」

「知っているのか?」

「......逆に聞こう、なぜ知らないと思った?」

「教えてくれ神楽、どんなやつだ?」

「教えたら意味がないだろう。ただこれだけは答えてやる」

「今の貴様が全力で戦えば勝てる相手だ」

「良かった」


...少しだけ安心できた

あくまで少しだが...勇気は出た


妖炎で刀を覆う

身体強化を使う


少し残っていた疲労感もすべて消えた

身体が軽い


「初めての戦闘だ...」

「よし、いくか」


俺は跳んだ

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