第2話 神刀に

神楽かぐらにつれてこられたのは紅い刀身の刀が鎖で縛られ繋がれている洞窟だった。

縛られている刀は禍々しいオーラを放っていた


「これが妾の本体だ」

「...これが刀」

祐樹ゆうき、貴様に神刀しんとうとして生きる覚悟があるなら掴むと良い。正直なところ妾は特殊だ、死ぬことだってあり得る」

「死ぬ!?」

「怖いなら取らなくても大丈夫だ。覚悟が決まるまで待っても何も問題無い」

「...大丈夫」


3000年経って世界が変わったらしい

本当に神楽の言っていたとおりならここで覚悟を決めなきゃ結局死ぬ


俺は覚悟を決めて刀を掴んだ

「くっ...」

全身を焼け尽くすような痛みが襲った

痛い...耐えられそうにない


―――――――――――――――


「―――か?祐樹よ大丈夫か?」


どうやら俺は気を失っていたようだ


「...大丈夫なはず」


思っているよりも声が出なかった


「やっと起きたか」

「......」

「本当に大丈夫なのだな?祐樹よ」

「...なんとか」

「妾を掴んでも生きておるか...」

「死にかけたけどな」

「...良かった」

「なにか言ったか?」

「なんでもない」


少しして神楽は話し始めた


「ここは日本で1番空に近い土地。妾は神の使い【御使いみつかい】...故に神すらも刀に閉じ込めたこの世界に呪われた」

「神を閉じ込めた...?」

「先ほど刀には魂や伝承が宿ると言ったな、だが刀は宿らせるだけではない、この世界は神を封じ込めることにも使った。そして神を閉じ込めた刀のことを人は神の刀かみのかたなと呼んだ」

「妾は御使い、刀に閉じ込められることはなかった。その代わりに呪われた」


そう言って神楽は少し寂しそうな表情をした


「呪われた...」

「ああ、自分で言うのも何だが妾は強い。神を閉じ込めた刀に匹敵するほどに」

「それが今まで3000年誰も手に取らなかったのはなぜだと思う」


そこで気付いた、最初に神楽と会った時になぜここに居られるのか聞いていた理由を


「呪われていたから...」

「そう、呪われていたからだ」

「どんな呪いなんだ?」

「妾が受けていた呪いは周囲の魂の変質」

「近づけば最終的に無に帰る。しかし貴様は3000年前から来ている。だから魂が歪んでいるのだ。歪んでいるものは変質しない」

「偶然が生んだ奇跡、妾を持てる者があらわれるとは想像もしていなかった」

そういう神楽は少し嬉しそうに見えた



「基本的に妾ができることは妖炎ようえん幻術げんじゅつ、そして変化へんげをきっかけにした身体強化だ」

「変化をきっかけにした?」

「なんだ貴様、無条件かなにかかと思っていたのか?質が悪いものだと寿命を使った身体強化などもあるぞ?」

「寿命...」

「変化だけとは良心的なんだな」

「良心的...か」

「...祐樹には悪いが変化は妾の姿を基本にしている。慣れて妖炎や変化が扱える様になっても限界がある」

「体格...はともかくとして、性別を変えることは無理だ」


......整理するのに時間がいりそうだ


......戦うときは常に少女の姿?


「つまり戦うときは少女の姿だということか?」


「ああ、そこはどうしようもなくてな」

「むしろ戦闘中だけだと戦いにくい。なれるために普段から変化しててもいいぐらいだ...というかそうした方が良い」

「1度試してみるか?」

「いや、遠慮しておく」


こうして必要がないなら絶対に変化はしないと心に決めた


―――――――――――――――


少ししてからまた神楽が話しかけてきた


「初めてでむしと戦うことはまず無理だ、少しだけでも力を使えるようになっておけ」


すこし迷ったがやらずにいるよりかはマシだと思い使ってみることにした。


「まずは妖炎だな」

「神楽、妖炎ってどうやって使うんだ?」

「...まずはイメージをしろ。刀を紅い紅い炎が覆っていく、そんなイメージだ」


妖炎をイメージする......が、できない


「神楽、できそうに無いんだが」

「...そう簡単にできないか。だがイメージが足りないだけだ。しっかりとイメージできればたとえ弱かったとしても使えるはずだ」

「イメージか...妖炎のイメージなんて浮かばないんだが」


そんなことを言っていたら神楽が近づいてきて自分で手を傷つけていた


「何してるんだ!?」

「少し待て」


そして神楽は自分の血を刀に垂らした


「妾の血が燃えるようなイメージをしてみろ。そのほうがやりやすいはずだ」

「わ、わかったけど痛くないのか?」

「それなりには痛いが?」

「じゃあなんで?」

「その方がわかりやすいこと以外に理由がいるか?」


神楽の考え方自体は理解できるがやりたくはないな


「...この血が燃えるようなイメージでやればいいんだな?」

「ああ、やってみろ」


神楽の血が燃える...


だんだんと刀から炎が昇ってくる


「やっとできたか」


そう言いながら神楽は2メートルはありそうな岩を準備していた

そして切ってみろ、そう言いたげな顔でこっちをみていた


......それ刀折れないか?


「安心しろそんなことで刀は折れない」


神楽がこっちの考えてることがわかっているかのように言ってきた

だがそう聞いて安心し、ひと思いに刀を振った


もちろん岩なんて切れるはずがなかった、傷が付いただけだ

だが少し傷になった箇所はまだ燃えている


「初めてにしては上出来だな」

「何様だよ」

「御使い様だ」


...そうだった


「この岩程度なら身体強化を極めれば空気を切るような感じで切れるようになる」

「妖炎で燃やし尽くしてもいいしな」

「...祐樹、1度身体強化を使ってみろ」

「それって変化しないといけないよな?」

「そうだな」

「嫌だ」

「やるんだ」

「さすがに嫌だ」

「やれ」

「......」

神楽が有無を言わさぬ表情で俺を睨んできた


覚悟を決めるしかなさそうだ...

絶対に変化しないと決めたばかりだったはずなのにな


「変化はサポートしてやる。心を落ち着かせろ」

「わかった」


俺は光りに包まれた


「おお、すごいな」


少しきれいで感動していたらいつの間にか神楽は洞窟の奥から鏡を取り出していた


鏡を見ればとても可愛らしい少女がいた

狐耳は無いが神楽と同じ銀髪、金色の瞳だった。身長もほとんど同じだ

変化して身体に多少の違和感があるがそこまで気にすることじゃなさそうだ


「......なぁ神楽」

「なんだ?」

「...服って」

「...祐樹、すまんな。今度作っておくから、今日だけは我慢してくれ。どうせ妾しかいない」


なにかを捨てるような気がするが諦めるしかなさそうだ


「祐樹、もう一度岩を切ってみろ」

「ああ」

「身体強化をかけるぞ」

「身体軽!?」

「それが身体強化だ」


そう言いながらまた2メートルはありそうな岩を持ってきていた


「少し跳んでそのまま切ってみろ」

「ん?跳んだ方が良いのか?」

「そういう訳では無いが...とりあえず跳んで切ってみろ」


身体が軽い今ならこの岩も切れる気がする

炎が刀を覆うイメージで...


跳んで

――ッ!

跳びすぎだろ!?

10メートルは跳んでるぞ


落ち着くんだ...

タイミングを見て...刀を振り下ろした


岩は切れていた


「身体強化ってどんだけやばいんだ!?岩が切れたぞ?」

「しかも何だあれ、軽く10メートル跳んだぞ?」

「なれるまではあんなもんだ、練習あるのみだな」

「まじかよ」

「...そういえば変化してるのにあんまり違和感ないな」

「そうだろうな、そもそも身体強化の時点でかなり変わるのだ」

「多少姿が変わっても誤差の範囲だ」

「変化も初めてだしな、一旦解いてもいいぞ」


どうやら身体強化と変化を解いてもいいみたいだ


「...なあ神楽、どうやって解くんだ?」

「そんなのこうやって―――?」

「どうしたんだ?」

「なあ、祐樹よ落ち着いて聞いてくれ」


とてつもなく嫌な予感がする


「神楽、もしかして―――」

「おそらくだが、そのもしもだろうな」

「変化が解けなくなったってことであってるか?」

「ああ、そうだ。すまない、戻せそうにない」

「ふざけんなよーーー!!!」

「祐樹、うるさい」


やっぱり変化が解けなくなったみたいだ


「ずっとこのままなのか?」

「原因次第だな」

「なにが原因なんだ?」

「ちょっと待て―――」


そうしてものすごく憂鬱な気分で3分ぐらいたった時、神楽が口を開いた


「なるほど」

「どうだったんだ?」

「この前、祐樹は魂が歪んでいると言っただろう」

「ああ、言っていたな。で、それがどうしたんだ?」

「それが原因みたいだ。いや、正確に言うとその魂の歪み、妾の呪い、変化の3個が関係しているみたいだ」

「つまりその3個が奇跡的に組み合わさったことで変化が解けなくなったってことか?」

「そういうことだ、本当にすまない」

「はぁ、事故ってことならどうしようもなかったんだろ。解ける可能性はあるのか?」

「妾の呪いが解ければ可能性はあるが...」

「変化が解けなくて害があることってあるのか?」

「特にはないが...強いて言うならば慣れるまでは生活がしにくいぐらいか」

「それならまぁ...」

「本当にすまなかった」

「事故だからしょうがない」

「ありがとう」


事故なら仕方ないと割り切ることにした

害が無いならギリギリいいか......いいのか?


「なあ祐樹、とりあえず身体強化だけでも解かないか?」

「身体強化は解けるよな?」

「ああ、解けるはずだ」

「あ、本当にとけ―――」

「ッッッ!」


身体強化を解いた瞬間にとてつもない痛みと疲労感きて地面に倒れてしまった


「かぐ、ら、これ、なん、なんだ?」

「言い忘れておった―――」


神楽から聞いた話によると身体強化はかなりの体力を使うらしい。使ってる間は大丈夫だが解いた時が大変なのだという


「そういうことは先に言っといてくれよ...」

「すまなかった。だが妾からすれば当たり前のことなのだ」

「あ、そういうことか」


―――――――――――――――


しばらくしてから神楽が話しかけてきた


「祐樹よ、服はどんなデザインがいいか?」

「ん?作ってくれるのか?」

「ああ、今からな」

「まぁ必要なのか...」

「神楽と同じ和服でも作ってくれ」

「なんでまた妾と同じ服なんかを」

「俺が着てみたいからだ」

「...わかった明日にはできている」


そう言って神楽は俺が持っている刀に触れ、眼の前から消えた


「...戻れるのかよ」


―――――――――――――――


作者の勝手にQ&A


Q.幻術は出てこないの?


A.神楽によると「幻術は制御が難しいからな、今の祐樹じゃ全くつかえない」、とのことなのでしばらくは出てこないでしょう

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る