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町に繰り出したけれど、やっぱり街の特徴は薄くて、あまり面白くない。教会の真逆の方向に進んでいる事以外何もわからないが、勘で家までは戻れるだろう。
遠くから沸き立つ声。何か行事でもあるのだろうか。シモンはそんな呑気な気持ちだった。東の君主。そんな単語がふっ浮かんでは消えた。
建物が突如として無くなって、目の前には湖が現れた。キラキラと水面が煌めいていた。屈んで目線を下げると湖面に綺麗に反射した対岸の木々が絵に映える。水中をよくよく見ると、水の中にも機械で出来た魚が泳いでいた。器用なものだ。いくつもの関節となるパーツを動かす仕組みが垣間見える。
沸き立つ声はだんだん近づいてくる。神輿だろうか。それにしても流石に騒ぎすぎではなかろうか。事件性も感じるが、こんな何もない町で事件が起こるとも思えない。確認しに行こうにも言いようのない鬱々とした気持ちが、歩く気を出させてくれない。
湖の向こう側。いくら大声で叫んでも届かないほど遠くには、二体の人形が歩いているのが見えた。一体は青い髪をしていて、もう一体は黒い髪をしていた。髪が長い、それがわかる程度で具体的なことはわからない。
どっどっどという機械的な音が近づいてきた。音の方向を見ると、前に見たような機械仕掛けの馬がいた。その上には機械仕掛けの人形かと見間違うほど全身に装備を固めた兵士がいた。右手に握った槍の先端に太陽光が煌めく。
これは危ない。確実に危ない。それだけは何の状況を知らないシモンにさえわかる。1歩後退りする。騎兵の動向を注意深く伺う。兵士は確実に殺意を纏っている。
兵士は右手の槍をシモンに向けながら馬に拍車をかけた。荒れ狂うように一つの塊となって、騎兵はシモンに加速してゆく。動こうにも体がうまく動かない。
避けなくては、そう思ったのと同時に強い衝撃と共に吹き飛ばされた。腹に突き刺さる槍が見えて、空、そして、湖の対岸の二体。
対岸の二体のうちの一体。青い髪の方がシモンの方に腕を伸ばしていた。周りに微か光を放っているように見えた。視界がスッと白飛びしていく。
遅れて鈍痛が雷撃のように全身を駆け巡った。痛さが飽和してどこが痛いのかもわからない。ぼちゃん。どこか遠くのことに感じる水の音が最後だった。
意識が覚める背中に冷たい感覚がした。少し伸ばす手がざらざらした壁に触れた。あの石棺を思い出す。うっすらと目を開けるとハンナの姿が見えた。
「やっと起きた」
やっぱり口はほとんど動かさずそう発声した。
天井のゴシック様式にも見覚えがある。ここは教会だ。シモンは素っ頓狂なリアクションをしそうになったが、驚きのあまり頭が真っ白になった。
そうだ、槍。腹に手を押し当てる。凹まない。強く押し当てても穴もなければ痛みもない。
「何だか復活中に悪い夢でも見たって言う表情だね、おにぃちゃん」
「あ」
やっぱり口は重い。
「無理しないで、覚めたばっかなんだから」
夢と一蹴出来ないリアリティと既視感。シモンは自身の身に何かわからない、わからないからこその大問題が降りかかっている、そう予見させた。
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