アスランの物語 4





 ルカ・レオンスカヤを排除し、ようやくククリと二人きりになれたと思ったのもつかの間、思わぬ伏兵が俺を待ち受けていた。




「アスラン、アンタ、ククリが好きなの?」




 アナスタシア・ウィッテは、思ったことをそのまま口に出す女性だった。





 ククリとアナスタシアと3人で森にピクニックに行ったときのこと。



 ククリが野生のウサギを追いかけるのに夢中になって……、


 たまたま二人きりになったとき、アナスタシアは俺に切り出してきた。





「……」


 無言のままの俺に、アナスタシアは肯定と受け取ったようだ。



「よかったじゃない。両想いで」


 アナスタシアの言葉に、俺は思わず前のめりになる。




「本当なのかっ!? ククリ様も、俺をっ……!?」


 俺の言葉に、アナスタシアはげんなりとした表情になる。




「まあ、ククリもアンタを好きなのは間違いない、でも……」


 アナスタシアは、俺の鼻先に人差し指を突きつけてきた。



「アスラン、アンタ、ちょっと最近露骨すぎよ!

アンタがククリを見る目、……まるでおいしそうな獲物を目の前にした人食い狼みたい!」



「……っ」




 たしかに、最近自覚はあった。


 ことあるごとに、ククリに屈託のない笑顔を向けられている。


 そして、ククリからの賞賛の数々。


「アスラン、すごいな!」

「アスランのそういうところ、いいな!」

 極めつけは、

「俺、アスランのこと、好きだよ!」


 こんなククリの直球の感情を受けて、平常心など保てるものか!





「アスラン、あのね、こんなこと言いたくはないけど……、

アンタの好きとククリの好きは、たぶん違うわよ」



 それも、なんとなく、気づいていた……。


 認めたくは、なかったが……。




「知ってるでしょ。ククリは、恋愛とか、そういう男女のいろいろなこととか、誰にも教わったことがないの!

あのエルミラ様の意向で、ククリのそういうことの知識は5歳児程度よ!」


「……わかっている」



「ククリは多分、アンタのこと、優しくて頼りがいのある従兄のお兄さん、くらいにしか思ってないわよ。

その優しい憧れの従兄が、自分をいやらしい目で見て、脳内で自分を好き放題弄んでいる、なんて知ったら、いったいククリはどうなってしまうでしょうね?」



 なんという鋭い指摘!

 このアナスタシアという女性に、俺は底知れぬ恐れを感じた。




「……善処する。今後は、ククリ様に、俺の心の内を悟られないように……」


 俺はぐっと拳を握り締めた。



「それはそうと……、ククリの方に、少しはそういうことに目覚めてもらう、というアプローチもあるんじゃない?

もうククリも14歳になるんだから……」


 アナスタシアの薄緑の瞳が、光る。



「それは、どう、いう……」



「ククリに男女の違いっていうのを、まずは認識してもらわないとね!

来るとき、すごくぬかるんでた道があったでしょ。帰りにそこを通るのよ。

アスラン、その時アンタはククリをほうっておいて、先に私をわざとらしくエスコートするのよ。

その時ククリがどんな反応をするか……、それを見てから、今後のことを考えましょ!」



「……わかった」


 俺はうなずいた。




 ――その時のアナスタシアの提案が、俺とククリの運命を、大きく変えることになるとは、知らずに……。





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