アスランの物語 3


 「チーム」の構成員たちのうちほとんどは、俺が剣を片手に少し脅しただけで、すごすごとククリから離れていった。


 厄介だったのは、ククリに邪悪な情念を抱くものたちだ。


 特に――、最後まで俺をてこずらせたのは……。





「ルカ・レオンスカヤ」



 俺は王立アカデミーの図書館の一画で、魔法に関する分厚い書を読んでいるルカに声をかけた。




「なんだ? お前と話すことなど、なにもないが?」


 青と緑の中間色の瞳が、剣呑な色を宿す。




 ルカは、俺が剣を持ち出したところ、お得意の魔法で応戦してきた。コイツは補助魔法などもオールマイティに使えるらしく、俺にとってはとてもやりづらい相手だ。



 ――力で御すことができない男……。



 仕方がないので、俺は少々姑息な方法をとることとした。




「ルカ、これが最後通告だ。

これ以上無様な目に遭いたくないのなら、ククリ様の前から身を引け!」


 俺の言葉に、ルカはその酷薄そうな唇をゆがめた。



「断る! 身を引くべきは、お前の方だ!

アスラン・ベリーエフ。今はククリ様に気に入られて、天狗になっているようだが、所詮はド田舎の辺境伯の跡取りだろう?

お前は、ククリ様の側にずっといることはできない。

ククリ様にふさわしいのは、私だ!」



 今度は俺が、唇をゆがめてルカを見た。



「ところで、お前のその魔法の鞄に大事そうに入れている、分厚い日記のことだが……」



 俺の言葉に、ルカは目の色を変えた。




「貴様っ、なぜ、それを!」


 ルカが、後生大事に分厚い日記帳を持ち歩いているのは、ちらりと見たことがあるので知っていた。





「……そこに書かれた内容を、もしククリ様がご覧になったら、いったいどんな顔をされるだろうな?」




「貴様っ……、見たのかっ! ……この、腐れ外道がっ!!」


 ルカはぎりぎりと歯ぎしりした。




 もちろん俺は、ルカの日記を読んでなどいない。


 だが……、


 あのククリを見る、舐めるようないやらしい視線から、いったいどんなことを日々、その日記にしたためているかなど容易に想像することができた。



 俺は返事をせず、ただにやりと笑った。




「ククリ様は、お前のことも信頼しているようだぞ。

お前は……、その信頼を裏切りたくは、ないよな?

ククリ様に、汚物を見るような目で、見られたくは、ないよな?」



「くっ……」



 そこまで言えば、十分だった。


 ルカは聡い男だ。




「貴様っ、覚えていろよ! 私はいつか必ず、お前をククリ様の側から排除してやる!!」






 ――馬鹿な男だ。


 俺は、ルカにくるりと背を向ける。




 あの純真なククリを性的に弄び、恥辱にその顔を歪めさせて……、

 あられもない肢体を好き勝手に嬲り、淫らな声をあげさせて……、

 懇願するククリに、無理矢理後ろから覆いかぶさり、そのまま一思いに自らの欲望を……、




 そんな妄想を日記につづるなら、最初から日記をつけていることなど、周りに悟られるべきではない。




 もし、そんな日記をつけるならば……、

 その日記は結界を張った自分の部屋の奥、さらに深く結界をはった扉の奥深くに、誰にも見つからないよう、ひそやかに隠しておくべきだろう。





 ――俺のように!!!!







・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る