アスランの物語 2
「……っ」
何が起こったのか、俺にはまったくわかっていなかった。
呆けたまま、尻餅をつく俺。
俺はククリの剣を受け止めて、打ち返した、はずなのに……。
――なぜ、俺は、こんなみっともない姿で……。
「剣術は力があればいいってもんじゃないって、お前の田舎では習わなかったのか?」
小馬鹿にしたようなククリの言葉で、気づく。
――そうか、この目の前の少年は、俺の力を逆に利用して、俺をひっくり返したのだ。
俺は思わず息を呑んだ。
なんという早業、なんという身のこなし!!
「わーっ、さすがはククリ様ですっ!」
「今日もお見事でした!!」
「いつ見ても、素晴らしい剣さばきですねっ!」
取り巻きの少年たちから拍手喝采が上がる。
そうか、この公爵令息はこうやって自分の仲間を増やし続けているのか……。
「フン、辺境伯の息子というから、いかほどの者かと思ったが、大したことはないな!」
侮蔑の込められた声に思わず振り向くと、肩あたりで銀髪を切りそろえた背の高い少年と目が合う。
「ククリ様、こんなやつ、手下にする価値もありません、どうか……」
ククリに蕩けるようなまなざしを向けるこの少年……。
「いや、俺はその髪と紫の目が気に入ったんだ。
アスラン、いいだろ? 今日から、俺のチームに入れよ! きっとすごく楽しいぜ!」
ククリは、屈託のない笑顔で俺にその手を差し伸べてきた。
「ええ、ククリ様。お見それいたしました。ぜひこの愚かな俺を、あなたの
笑みを浮かべて、その小さな手を俺は取った。
もうすでに俺の心の中は、ククリ・メルアへの賞賛と憧憬と、そしていままでどんな美しい少女にも感じたことのない不可思議な感情で占められていた。
――俺の愛する人、ククリとの出会い……。
そして……、
「……チッ!」
舌打ちして、俺を睨みつけるその少年……。
その後、長きにわたって俺の因縁の相手となる、ルカ・レオンスカヤ、その人だった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
運よく俺はククリに気に入られたらしく、それから王立アカデミーでも、常にククリの側に置いてもらえていた。
ククリの側にいて、わかったことがある。
ククリの率いる、貴族の子弟たち数十人の「チーム」。
その構成員のうち、約4割は剣術に秀でたククリの純粋な崇拝者たち、3割は国王陛下の孫であるククリとなんとかして縁をつなげたい野心家たち、2割がいわゆる「長いものに巻かれる」「日和見主義」のみんながいるからなんとなく……のやる気のない者たち、そして残りの1割が俺やルカ・レオンスカヤのような……、ククリ・メルアに邪な心を持つ者たちで形成されていた。
俺は、ククリの気を引くために、ククリの日課、得意教科から、好きな音楽、好きな食べ物まですべてを調べ上げ、俺といてククリが快適に過ごせるように腐心した。
そしてククリにふさわしい人間になるため、剣術はもちろんのこと、王立アカデミーでの魔法、勉学、マナー、ダンスにいたるまで、すべての面で一流の男になるように血のにじむような努力を続けた。
その甲斐あってか、次第にククリは俺に依存しはじめ、なんでも俺を頼るようになっていった。
こうなったら、こっちのもの……。
――次は、ククリに群がる男たちを、排除するのみ!!
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