アスランの物語 1
※番外編、アスランsideのストーリーです!
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――恋に落ちたのは、一瞬だった……。
「ハイッ、俺の勝ちっ!!
今日からお前は、俺の部下ね!」
無様に尻餅をついた俺の鼻先に突きつけられた剣先。
悪戯っぽい笑みを浮かべた、形の良い唇……。
ゆるくウエーブのかかった砂色の髪、しなやかな手足……、
勝ち気そうなハシバミ色の瞳に見下ろされた俺は……、
――そう、その時俺は……、
下半身に血が逆流していくのを感じていた……。
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自分が容姿にかなり恵まれていることに気づいたのは、割と幼い頃だった。
辺境伯の長男として生まれ、何不自由なく育てられてきた。
自分で言うのもなんだが、頭もよく、何事においてもそつがない。
体格にも才能にも恵まれ、剣術の型も一度見ただけで飲み込めた。
異性受けも良く、出会う少女、また妙齢のご令嬢まで、俺の虜にならない女性はいなかった。
――つまり俺は、生まれつきなんでもこなせる、嫌味なほどオールマイティな人間だった。
そんなこともあり、12歳になって王立アカデミーに入学するころには、俺はすでに万能感に包まれたこまっしゃくれたガキに成長していた。
そして、俺は同時に……、
とんでもなく人生に退屈していた。
何をしてもそれなりに何でもこなせてしまう……、人は向こうの方から寄ってくる。
言われた通りにやるだけで、周りの人間が俺を賞賛する。
努力なんて、する必要すらなかった。
――ククリに出会うまでは。
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「お前だな。ド田舎から出てきた黒髪ってのは!」
出会い頭に、決闘を吹っかけてくる物騒な公爵家の息子がいる……、という話は聞いていた。
ため息交じりに振り向くと、そこにいたのは……、
「そ、お前だよ。アスラン・ベリーエフ。
お前の黒髪って、紫がはいってて綺麗だな!!
俺は、ククリ・メルア。
ってわけで、いっちょ、勝負しようぜ!」
俺が返事をする前から、細身の剣を構えたその砂色の髪の少年。
「受け取れ! ベリーエフ」
少年の取り巻きと思われる貴族の子弟が、有無を言わせず俺に長剣を放ってきた。
「俺は、こんなところで決闘を受ける気はない」
剣を返そうと、鞘に入ったまま突き出した剣に、ククリはひるまずに近づいてきた。
「は? 早く抜けよ。鞘に入ったままでヤる気か?
俺は別にいいけど、後悔するのはそっちだぜ?」
こちらの意向など、まるでお構いなし。
まあ、いい。
――ククリ・メルア。
俺は挑戦的なまなざしを向けてくる、ククリを一瞥する。
国王陛下の孫にあたる、メルア公爵家の三男坊。
そして、俺の二つ下の妹・ヴィクトリアの結婚相手の第一候補。
――もしかしたら将来、義理の弟になるかもしれないこの少年。
親の権力を傘に着て、傍若無人にふるまうこの我がまま令息に、
さきに、兄としての貫禄を見せつけておくというのも、一興かもしれない。
「わかった。だが、君が負けたら、こうやって出会い頭に不躾に対決を申し込むのは、今後一切やめると約束してくれ」
長剣を鞘から引き抜いた俺の言葉に、ククリはヒューっと口笛を鳴らした。
「OK、いいよ! でも、それは……」
ハシバミ色の瞳が、光る。
「俺に勝ってからの、話な!」
ククリの剣が、一瞬で空を切り裂いた。
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