第46話

「アスランっ……」


 俺は感激に、瞳をうるませた。



「でも、さっきは本当にびっくりしたよ。

ククリ、約束して! もうほかの男と絶対に二人きりにはならないって!」



 アスランは、ルカの寝台で、ルカに乗りかかっている俺を見て、俺とルカがコスチュームプレイをしている最中だと勘違いしたのだという。


 ――すごい想像力……。


 まあ確かに、メイドの格好をしてはいたのは俺だが……。




「……でも、ルカと俺だったら、俺のほうが強いし……」



 唇を尖らせる俺に、アスランは怖い顔になった。



「それでも、駄目! 最近、俺がどれだけ不安だったかわかる?

ククリが元の姿に戻ってから、ククリの様子はずっとおかしくて……。

俺の気持ちも知らないで、ククリはコミニュケーションパーティで、ククリにずっと執着してたルカと親しげにするし……。

そうこうしてるうちに、ついに、ククリは俺と離婚したいだなんて、言い出して……。

だから思ったんだ。もしかしたらククリが最近変わって、俺に離婚を言い出したのは、ルカの影響なのかもって」



 アスランは、さらりと俺の髪をすいた。



「俺……、てっきりアスランは、ルカのことを好きだったんだって、勘違いしちゃったんだ。

だって、ルカは、アスランのバディだっただろ……?」


 俺がアスランを見上げると、アスランはため息をついた。



「バディになったのは、ククリに近づかないように、ルカを見張るため。多分、ルカも俺の弱みを握ろうとして、バディに志願したんだろうけどね。昔から俺とルカは、そういう関係だったんだ」



「そうだったんだ……」



「でも……、俺とルカが恋愛関係にあるだなんて、どこをどう誤解したら、そういう結論にいたるのかな?

ククリにそんな目で見られていたなんて、かなり、ショックかも……」



 アスランは、ちょっとだけ拗ねたような表情になった。

 

 くぅーっ、そういう顔も、メチャクチャ可愛いんだけど!!




「だって、ルカは綺麗だし……、魔法騎士団の人たちも二人は怪しいって言ってたし!

それにそれに、俺、聞いちゃったんだ! アスランがプロポーズの準備してるって! それって、なにかの間違いだったのか?

それとも本当に、誰かに……」


 不安そうに俺がアスランを見ると、アスランは驚いた顔をしていた。



「ああ、本当にここでは何も隠し事ができないな……、ククリ……、あのね……」


 言うとアスランは、騎士団の制服の内ポケットから、赤いビロード張りの小さな小箱を出した。



「本当は、ククリの20歳の誕生日に渡すつもりだったんだ。

ほら、前のあの時は、結婚してもククリとそういう事ができないっていうあの条件を、無理やり呑まされたあとのプロポーズだったから……。

だから、もう一度、ちゃんと自分の気持ちを伝えて、ククリにプロポーズし直したいって、ずっと思ってたんだ!」


 アスランがその小箱を開けると、そこには美しく煌めく紫色の宝石のペンダントが入っていた。



「すごく、……綺麗!」



「ククリ、聞いて」



 アスランが俺の手を取り、その宝石と同じ色の瞳で、俺を見つめた。




「ククリ様、初めて貴方と出会ったその日から、私はずっと、あなたに恋い焦がれていました。

どうか私、アスラン・ベリーエフを、貴方の生涯の伴侶としてください。

そして貴方のすべてを、私に委ねてください」


 アスランが恭しく俺の手にキスをする。



「アスラン……! うん、俺もずっと、ずっとアスランのことが大好きで……。

だから、ずっとずっと一緒にいよう。もちろん、俺の全部は、最初からアスランのものだよ!」


 俺はアスランの手を、自分の頬にあてた。



 俺の返事にアスランは輝くような笑みを浮かべると、俺にそのペンダントをかけてくれた。



「ククリ、この石には俺の守護魔法がかけられているんだ。

離れているときも、ずっと俺が守っていられるように……。だからずっとつけていて欲しい」


「ありがとう! アスラン、それで……、俺からも提案があるんだ!」


 今度は俺が、アスランの耳元に囁いた。



「俺の20歳の誕生日に、結婚式のやり直しをしない?

ほら、俺たちの結婚式って、ほとんど全部、お母様の思い通りだっただろう?

だって、誓いのキスすらなかったんだから!」



「ククリっ!!」


 アスランは感極まったのか、いきなり俺をぎゅっと抱きしめた。



「嬉しいよ、ククリ!

じゃあ、結婚式の誓いのキスが、俺達のファーストキスになるんだね」



「え……」



 どうやら、アスランは騎士としての誓いを固く守るため、俺が20歳になるまでは、絶対に手を出さないつもりらしい。




 ――なんだか、ちょっと複雑な気分……。




「あっ、そうだ、言い忘れてたけど……」


 アスランがいたずらっぽい笑みを浮かべ、俺のほっぺたをその長い指でくすぐった。




「その、カフェテリアの制服、よく似合ってるね。

すごく可愛いよ! でも俺は、どんな格好をしていても、ククリのことが大好きだけどね!」





 ――はあぁあああ、このスパダリイケメンめぇええええっ!!!!


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