第45話

「んっ、あっ……、ダメっ、もうっ、いいからっ、アスランっ!!」


 俺は、首筋に顔を埋めるアスランの髪を、強く引っ張った。



「……っ、まだ、足りないっ……、ククリっ……」


 俺の言うことなど聞く気がないアスランは、俺の後ろ首を掴むと、俺の首筋に唇を這わせる。



「んっ……、ああっ……」



 ルカに舐められたときは、嫌悪感しかなかったのに、アスランの唇が触れたところすべてが、ピリピリと電流が流れたみたいになって……。



「ククリ、愛してる……、もう誰にも、触れさせないっ!」



 アスランの熱い囁きが耳元をかすめると、俺の全身は震えた。



 俺は甘いため息を漏らす。



「アスラン……、俺もっ……、アスランが好きっ! 愛してるっ!」



 ――俺は全身で、アスランを感じていた。


 それは、とてつもなく甘美で……、得も言われぬとろけるほどの快さで……。






「アスランっ、貴様っ、私の目の前でククリ様を汚す気かっ!?」



 魔法がかかった鎖で、柱に縛り付けられているルカが叫ぶ。




「汚してなどいない。これは消毒だ!」


 言うと、アスランは俺の首筋をぺろりと舐める。



「あっ、んん……っ、アスラン、アスラン……っ」



 ――上書きして、との俺のお願い通り、アスランはルカが俺にしたように、俺を姫抱っこすると、そのまま俺をそっと寝台に寝かし、俺に覆いかぶさってきた。



 はだけられた襟元はアスランの魔法によってきちんと元通りにされたが、すぐまたアスランの手によって、一つ一つボタンをはずされた。


 そして、ルカが俺にしたよりも、ずっと念入りに、執拗と言えるほど執念深く、アスランは俺の鎖骨を愛撫すると、俺の首筋に顔を埋めてきたのだった……。




 うん、さすがはアスラン。


 物事を言うのをよくわかっていらっしゃる……。





「ククリ……」


 アスランの深い紫の瞳が俺を見つめている。




「アスラン、好き……、キスしたい」


 俺はアスランの背中に、そっと手を回した。



「アスラン、やめろぉおおおおっ!! ククリ様ぁああああ! 私のククリ様を、汚すなぁああああ!!」


 ルカの絶叫。




「ククリ、大好きだよ。これからもずっと、一緒にいよう」


 アスランは優しく微笑むと、俺に頬を寄せる。



「うん、ずっと、一緒に……」



 アスランの顔が至近距離になり、そして、俺は目を閉じた。



 そして、



 ――チュ、とアスランが俺の額に唇を落とす。





 俺は目を見開いた。



 ……って、ええっ!?





 ――この期に及んで、まだデコチューとはっ!!!!(怒)








・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・








「ネリーが慌てて、魔法騎士団まで俺を呼びに来てくれたんだ。

すぐに駆けつけたんだけど、ルカの結界魔法の解除に時間がかかってしまって……」



 ――帰りの馬車の中。


 アスランは俺と膝をぴったりくっつけるように座っていた。


 うん、なんか急に、いろいろと距離が、近い。




「だから、屋敷の門が、あんなに破壊されてたんだ……」



 縛られたままのルカを部屋に残し、俺たちが外に出ると、あれほど立派だったレオンスカヤ邸の白い大理石の門柱は、見るも無惨にバラバラに崩れ落ちていた。



「ルカの結界魔法は強力だからね。だから、最後の手段で、武力行使で強行突破したんだ」


 白い歯を見せて、はにかむように笑うアスラン。



 いや、アンタ今、すごいことを言ってるよ! って、あの門の修理代、誰が支払うんだ!?

 うちにあとから請求書が、来るのかな?



「アスラン、ごめんね……。

俺、ずっと誤解してたんだ。アスランは俺と無理やり結婚させられたから、男の俺には興味がなくて、手を出してこないんだって……。

でも、ずっと、我慢してくれてたんだね……」



 俺の言葉に、アスランは俺の手の甲を、そっと撫でた。




「ククリとの結婚の条件は、エルミラ様に口止めされてたのもあるけど、

俺も……、ククリに俺の心の中にある、こんな醜い感情を知られたくないっていう気持ちがあったんだ。

ククリは本当に純粋だから……、ククリが20歳になるまでは、我慢して待とうって……」






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