第38話

「ククリ様がここに来られるのも、本当に久しぶりですね」


 王都近くのレオンスカヤ邸。


 そうだ、ルカが俺の一番の手下だったころ、俺はよくここに来て、こうやってルカに美味しい菓子と紅茶で、もてなしてもらっていた……。



 今、俺の目の前には、ルカ自身が淹れてくれたという香り高いお茶と、宝石のように色とりどりの砂糖菓子が置かれている。




「おや、お口に合いませんか?

申し訳ありません、今は家のものが出払っているので、大したお構いもできず……」


 美しい所作で俺の目の前のソファに腰掛けたルカは、音も立てずティーカップを持ち上げた。


「うん、すごく美味しく入っていますよ。ククリ様も、どうぞ」



「……いや、俺はいい。特に喉は乾いてない」



 俺は顎を引く。ちなみに俺はメイドの格好のまま。

 さすがにメガネとウィッグは外したので、顔から上と下がすごくちぐはぐな印象だ。


 着替える場所も時間もなかったし、それにいままでずっとドレス姿だったせいか、ルカも特に俺の格好を気にする様子はない。



 ――そんなことより、俺は早く事の真相を、ルカに確かめたかった。




「……そうですか。でもそこまで警戒されなくても大丈夫ですよ。

ほら、同じティーポットから淹れた紅茶を私も飲んでいます。

……毒など、いれていませんよ。こちらのお菓子も、いま開けたところです」


 そうして、水色の砂糖菓子を一つ、自分の口に入れる。


「ほら、ね? ククリ様……」



 ゾッとするほど完璧に整った微笑……。



「なんで……、なんで俺にあんな手紙を送ったりしたんだ?」


 俺の言葉に、ルカは小首をかしげた。



「どうして? 決まっています。アスランの不貞を貴方に知らせるためです。

アスランは、貴方を騙し、あの赤毛の令嬢とああやって、何度も密会しているのですよ」


 ルカはまるで俺を責めるみたいに、俺の瞳をじっと見つめた。



「嘘だ! 俺は今日、アナスタシアのところに行って、確かめてきたんだ。

確かに二人は何度か会っていたけど、二人は決してそんな関係じゃない!」



「ククリ様、貴方は純粋すぎます。

あの令嬢の言うことを、全部そのまま信じるのですか?

浮気を隠すために、二人で口裏を合わせているだけに決まっています。

私は魔法騎士団で、ずっとアスランを見張っていたんです。

アスランは、貴方というものがありながら、いけしゃあしゃあとあの令嬢と……」



「ルカ、もういい!」


 俺は立ち上がった。




「ククリ様……?」


「ルカ、もういいよ! もうお前の気持ちは、わかってるんだ!」



 俺の言葉に、ルカは顔を強張らせた。



「私の、気持ちを……、ククリ様が……、知って……?」


 ルカは明らかに狼狽していた。




「もう全部わかってるんだ、ルカ! でも、もう大丈夫、安心して。

ルカ、お前が勘違いしてるだけで、お前は両想いなんだ! だから!」





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