第37話

「なんだ、アスラン・ベリーエフっ! 人が大事な話をしている最中にっ!」


「このお嬢さんが嫌がっているのがわからないのですか?

さあ、早く手を離して!」


 アスランは冷たく告げると、ジェノ兄様の手首をつかんで、強引にひねり上げた。



「っ、痛い、痛い痛い痛いっ! くっそ、この馬鹿力がっ!」


 ようやくジェノ兄様の魔の手から開放された俺。




「大丈夫ですか? お嬢さん」


 アスランが心配そうに声をかけてきた。



 ――アスランのこの神々しいまでの美しさよ!!


 この瓶底メガネを通しても、その輝きは寸分も揺らぐことはなかった!




「あっ、ありがとうございますっ」


 更に声を高くして、うつむきがちにして答える俺。



 俺はギュッと拳を握りしめていた。



 くぅー、魔法騎士団でもこんなにイケメンなのか、我が夫は!!

 

 どうやったて、惚れてまうやろ!!!!


 これじゃ、好きになるなというほうが、無理!




「た、助けていただき、ありがとうございましたっ。では私、仕事がありますので!」


「あの……っ!」




 二人から逃げるようにして、カフェのバッグヤードに戻った俺。


 どうしよう、心臓のバクバクが収まらない。



 ――どうしよう……。



 やっぱりアスランが、好きだ。


 ――もう自分でもどうしようも、ないくらい!!






・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・





 ランチタイムが終了し、俺の潜入捜査も終了した。



 そして俺の仮説は……、今や確信に変わっていた!




 メガネは外していたが、まだメイド姿のまま、魔法騎士団の門を出たところで……、



 ――ルカ・レオンスカヤは待っていた。



 まるでここに俺たちがいたことを、あらかじめ知っていたみたいに。




「ククリ様、そんな格好で何をされていたんですか?

で……、ククリ様の問題は、解決できましたか?」



 不思議な色合いのルカの瞳が、俺を見つめている。



「ルカ……」



 ルカは、魔法騎士団の制服を着ていなかった。


 そういえば、カフェに来ていた団員が、ルカは今日は休んでいたとか言っていた。





「ククリ様、……私達は、話し合う必要が、ありそうですね?」


 確信めいた表情。



「ルカ! あの時、アスランとアナスタシアが密会しているという手紙を俺に送ったのは、お前だったんだな!」


 俺の言葉に、ルカは淡く微笑んだ。



「その事も含めて……、ククリ様には私の話をすべて聞いていただきたいのです。

どうでしょう? これから私の自宅でゆっくり……、ちょうど美味しいお茶も手に入ったところです」


 人を食ったようなルカのふるまい。




「ククリ様……」


 傍らのネリーが不安げに俺を見る。



「大丈夫だ、ネリー。ちょっとルカと話をつけてくる」




 


 ――そうだ、俺はこの男と話をつけなければいけなかったのだ。



 ――ルカ・レオンスカヤ。




 ――俺の因縁の相手は、こいつだったのだ!!




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