第36話

~CASE2~ 騎士と文官(ともに女性)




「いらっしゃいませ~! 本日のサービスランチはチーズinハンバーグです」



「ラリサちゃん、どうする?」


「あ、私はシェフのおすすめパスタ!」


「じゃ、私はキッシュランチ!」



「かしこまりましたぁ~!」



「最近どぉーなのぉ? 例のカレとは?」


「うーん、カレって文官だからさ、安定はしてるんだけど、どうも面白みがねー」


 文官の制服を来た女性が頬杖をつく。……ふむ、職場恋愛か。




「でも、騎士の男ってサイテーよ! ほんと、遠征なんかいったら娼館行って女買うことしか考えてないんだから!

それに比べたら、文官の男は真面目だもん、うらやましぃー」


 なるほど、やはり!! 騎士の男、サイテー!!!!



「えー、でも騎士って言ったら、アスラン様は浮気なんて絶対しないでしょ!

あの方、奥様のために残業もせずに家に真っ直ぐ帰って、いっつも残業代ゼロよ!」


 文官の女性の言葉に、


「ね、ラリサちゃん、これ、絶対誰にも秘密なんだけどさー」


 女騎士が小声になり、テーブルに身を乗り出す。

 俺も柱の陰から、耳をダンボにする。



「私の叔母さん、王都のウラヌスって店で働いてるんだけど、そこで、見たらしいのよね!

お忍びで来た、アスラン様を!!」


「えーっ、あの超高級宝石店に?

でもそれって、奥様へのプレゼント買いに来ただけでしょ?」


「それがさぁー、なんと、プロポーズ用のジュエリーって、指定して買いに来たらしいわよ。

プロポーズって!! アスラン様結婚してるのに、誰にプロポーズすんの!?

もしかして、離婚するって話、本当なのかなあ?」



 ――!!!!!!


 

「たしかに……、だって、奥様って言っても、結婚相手って実は男だもんね。

陛下のお孫さんだし、ワガママで気性も荒いって話よ!

この前のコミュニケーションパーティだって、おかしな感じだったし!

そりゃ、アスラン様だって、愛想がつきるわよね!」


「あー、プロポーズされるのって、一体誰なのかしら??

そんな相手、騎士団にいた?」


「まさか、どこかの高位貴族のご令嬢に決まってるでしょー」



「だよねー、あー、でもうらやましいー!

いいなー、私もアスラン様と結婚したいーー!!」











~CASE3~ 魔法騎士団・副団長(男性)



 ヤバっ!

 あそこに座ってるの、ジェノ兄様じゃん!


 俺は、慌ててくるりと向きを変え引き返そうとしたが、その前にジェノ兄様と、バッチリ眼鏡越しに目があってしまった。


 仕方がない……、俺の変装は完璧だ。

 まあ、バレることはないだろう。




「いらっしゃいませ~! 本日のサービスランチはチーズinハンバーグです」


「見ない顔だな」



「っ……、本日、助っ人で入らせていただいておりまーす」


 裏声で俺は答える。



「君、名前は?」


「え……」



 ヤバい! そこまで作り込んでなかった!!




「名前は?」


 ジェノ兄様が、俺の顔をじぃーっと見てくる。


 もしかして、なにか、感づかれた!?




「えーっと、ナナ……です」


 とりあえず、適当な名前を言っておく。



「とても素敵な名前だ!!」


 言うと、ジェノ兄様はあろうことか俺の手をとって、その甲をナデナデし始めた。



「……あのっ、お客様っ!?」


 ゾワっと背筋に寒気が走る。



「ナナちゃん! 君、すごく可愛いね。俺にはわかる! その分厚いメガネのしたには、きっとキラキラしたかわいい瞳があるってこと!」


「……っ!」




 俺は驚愕した。


 ジェノ兄様……、パワハラだけでなく、こんなところでセクハラまで……!




 絶対、絶対そのうち、コンプライアンス違反で、クビになるからーーーーっ!!


 っていうか、エリザ義姉様に、言いつけてやるからなーーーーっ!!!!




「あ、ははっ、ご冗談を……、あの、オ……、私っ、仕事がありますので……」



 手を掴んだまま話そうとしないジェノ兄様を、俺はなんとか振りほどこうとする。


 だが……、




「ここで出会ったのが運命の出会い。どうだろう、今日、俺とディナーでも……」



 キメ顔で俺に囁きかけるジェノ兄様。




 アンタ、結婚しとるやろーーーー!?


 不倫、駄目、絶対!


 っていうか、俺、アンタの実の弟だからーーーー!!!!




「あの、ホント、困り、ます……の、でっ……」



 クソっ、あとで絶対人事に通報してやる!!




「そんなツレナイこと言わないでくれ。何を隠そう、俺は……」




「副団長、手を離してあげてください」




  後ろから、聞き慣れた、低く落ち着いた声がした。





 振り返ると、そこにいたのはもちろん……、


 超絶美形騎士の俺の夫、



 ――アスラン!!!!



 


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