第33話

「嘘っ、これが……、私!?」


 鏡を覗き込むアナスタシア。


 俺は前世で出演したテレビ企画「大人気スタイリストの魔法で主婦が大変身! ~ママ綺麗!! 旦那様も大感激♡」を思い出していた……。



 アナスタシアが着ていたぶりっ子趣味のリボン満載のドレスは、叔母から譲られたというシックなモスグリーンのエレガントなラインのドレスに変更。

 もちろんあの目の覚めるショッキングピンクのヒールも、渋めのゴールドにチェンジ!


 そしてそして、髪は夜会巻きにし、顔に塗りに塗りたくっていた白粉と頬紅は全て落とし、素肌の美しさを生かした薄化粧へと変え、頬骨のあたりにオレンジがかったチークをさっとひと塗りして、ヌーディな感じのリップを艶が出るように塗れば、あら不思議!!



 真っ赤なほっぺの白塗りアナスタシアは、誰もが振り返るほどの、大人の色気をまとった赤毛のエレガンス令嬢へと早変わり!



「まあああっ、アナスタシア様っ、なんてお美しい!」


 ネリーが目を輝かせる。



「ふふっ、俺にかかればざっとこんなもんよ! アナスタシア、覚えておいて! 厚塗りメイクは男ウケが良くないんだ」


 俺のメイクのアドバイスに、


 

「あ、アンタが、赤毛のそばかすって言って、私をからかったんでしょうが!!

だから私は、こうやって必死で隠してたの!!」


 アナスタシアが頬をふくらませる。


「……」


 そうだ、俺はアナスタシアをライバル視するあまり、彼女の赤毛とそばかすを、ことあるごとに揶揄っていた。



「ごめんアナ! はっきり言って、君のそばかすはかわいいよ! それだけ色が白いってことだし!

その透明感のある素肌を隠すなんて、もったいない。あと、赤毛は……、ごめん、俺の完全な嫉妬だ!

俺はこの砂色の自分の髪が気に入らなくて、アナの赤毛がずっと羨ましかったんだ……」



「ククリ、アンタ……、いったい何があったの……?」


 アナスタシアはびっくりした様子で、俺の顔を心配そうに覗き込んだ。



 俺はぎゅっと、そのアナスタシアの手を握った。



「アナ……、俺、アナとアスランにひどいことした!

これまでのことを考えたら、二人に恨まれても仕方ないって思ってる!

だから、もし、二人が愛し合ってるなら、俺は、きっぱり身を引いて……」


 俺の言葉に、アナスタシアの顔はみるみるどす黒くなっていった。



「はああーっ!? 誰が愛し合ってるって、誰と、誰が!?」


 ドスの利いた声で、睨みつけてくるアナスタシア。



「え……? だから、アナとアスラン、が……」


「はあーっ、はあーっ、はあーっ!!?? ありえない、ありえないんですけどっ!!

私にも選ぶ権利ってものがあるんですけど!

だいたいなんで、私がアンタの夫に手を出さなきゃいけないわけ?

っていうか、無理無理無理!! 外見がいくら良くても、あんな陰湿で執念深い男、私には絶対無理ー!!」


「陰湿……、執念深い……?」


 ――それって、アスランのこと?


 たしか、ルカも同じようなことを言っていたような……。




「でも俺、見たんだよね! あの「恋人たちの湖」でアナとアスランがボートに乗ってるところ!

二人はすごく楽しそうだった! あの日、アスランは俺に嘘ついて、あそこに行ったんだ。

だから……!」



「あー、アレ、見たの?」


 アナスタシアはさして驚いた様子もなく、言った。



「え……?」



「アンタの旦那様を実験台にしたのは悪かったわよ!

でもね、アスランはアスランで、私のこと懺悔室の神父様かなにかと勘違いして、ことあるごとに私に相談を持ちかけてきて……。

だから言ってやったの、たまには私のお願いも聞いてって!

そしたら、アスラン、しぶしぶ一緒にボートに乗ってくれて、初デートの際のアドバイスをいろいろとしてくれたってわけ!

おかげで、テルマン・カービル様と今、いい感じになってて、これからデートなのよね! キャハッ!」




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