第11話
「あの、俺から話しても…‥?」
「ごめん、さきに、こっちの話からさせてもらってもいい? ククリ」
なんでも俺に先を譲ることがあたりまえのアスランだったが、なぜかこの時は譲らなかった。
「魔法騎士団のコミュニケーションパーティのことなんだ。ククリ、たしか店にもうドレスを注文していたよね? もしかして、今の恰好で行くことにするのならキャンセルして、別の服を頼むことにする? もうあまり時間がないから、一からあつらえるなら早くした方がいいと思うんだ」
「!!!!」
この時の俺の気持ちがわかるだろうか?
さっそく、あっさりとアスランに出鼻をくじかれた俺。
離婚を切り出すどころか、家族同伴必須の魔法騎士団の今後の予定を持ち出され、いきなり身動きがとれなくされてしまった……。
そうだ、俺はすっかり失念していた。
魔法騎士団のコミュニケーションパーティは家族への慰労を目的に、年に一度、派手派手しく開催されるものだ。
ここで、騎士団の家族ぐるみの交流をしたり、独身の騎士なんかは、年頃の相手を紹介してもらえたりなんかする。
騎士団は結束が第一なり!!
このパーティは、騎士の出世の上でも大変大事なものであり、ここで妻やその家族が内助の功を発揮し、上司に気に入られたりすることも、あるとか、ないとか……。
だから、前世を思い出し、大人の事情ってやつを理解した俺がいま、そんなパーティを控えている大事な時期に、さっさと離婚してくれなんて、言い出せるはずがない!
もしそれでも離婚を強行してしまったら、アスランは独り身でパーティ参加する羽目になり、まわりから国王の孫との離婚の理由についてあれやこれやヒソヒソされることになってしまう……!
ただ、独身の女性たちにとっては、またとない狩場となるのかもしれないが……。
とにかく、こんなときにアスランに恥をかかせるというのは得策ではない。前世で俺が一時期担当していた芸能人夫婦だって、すぐにでも離婚したいのに、CMの契約上離婚できないってずっと嘆いていたしな。もうとっくに夫婦関係は冷めきっていたのに、長い間オシドリ夫婦を演じていたのはたしか……。
俺は小さく息を吐く。
ーー仕方ない。アスランの名誉のためにも、離婚の話をするのは、パーティが終わった後にしよう。
国王の孫である俺は、魔法騎士団においては一応「箔がある存在」であるのだから……。
すっかり意気消沈した俺に、アスランは心配そうな表情になった。
「ククリ、大丈夫? それで、ククリの話は……?」
「いや、いいよ。よく考えたら大した急ぎの要件でもなかったんだ!
だから、コミュニケーションパーティが終わってからにする」
「そう……」
あえて、俺の話を聞き出そうとしなかったアスラン。
おそらく、俺のことになんてこれっぽっちも興味がないに違いない。
だから、俺はあえて聞いてみた。
「あのさ、アスラン、今日は王都で大事な会議だったんだろ? どうだった? うまくいった?」
俺の問いに、アスランはすがすがしいほど爽やかな笑みを見せた。
「ああ、おかげで会議はとてもうまくいったよ。久しぶりに、会いたかった人にも会えたし。
……集合時間が早くて、今朝はゆっくりできなくてごめんね」
――こんの、大ウソつきがああああああああああっ!!!!
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