第10話
夕食の時間きっちりに、アスランは帰宅した。
――どんなことがあっても必ず朝食と夕食は一緒にとる!
これも、俺が結婚の際に決めた数々の二人の約束事の一つだった。
俺との約束を守るため、アスランは所属する魔法騎士団で、一切の残業を拒否しているらしい。
まだ騎士団では若手の部類に入るアスラン。
『新婚だから、残業はできません』
もちろん、こんな言い訳は、俺の前世でも、絶対に通用しなかった。
そんなことを口にしようものなら「テメー、ふざけんなっ、仕事舐めてんのか、この野郎!!」と先輩から罵声を浴びせられるのが関の山だ。働き方改革、ワークライフバランスなどといくら世間で叫ばれていたとしても、仕事の現場ではそんなきれいごとは通用しないのだ。
そして残業拒否の若手が疎まれるのは、この国中からの実力者が集うといわれる魔法騎士団でも同じこと。
――俺のせいで、アスランはきっと魔法騎士団でも針のムシロなのだ……!!!!
ああっ、俺はいったいどれだけアスランに迷惑をかけているんだっ!!
――とにかく、早い方がいい。
夕食の席で、さっそく離婚について切り出し、お互いの今後のことを話し合おう!
お母様が離婚をあっさり認めたのは驚きだが、メルア家のボスである彼女の承認があれば、怖いことなどもうなにもない!
とにかくGO、GO、GO!
そして、俺は今までの行いを詫び、アスランを解放する!!!!
俺は決意をあらたに、ぐっと拳を握り締めた。
だが……、
ことはそう簡単には運ばなかった。
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「ククリ、その恰好……!!」
すっかり元の男の姿に戻った俺を前に、アスランは一瞬息を呑んだ。
だが、アスランはすぐに表情を元に戻すと、俺ににっこりとほほ笑んで見せた。
「すごく懐かしい感じがするよ。……昔に戻ったみたいだね」
――こういうところがアスランのずるいところだ。
俺の今の恰好に対する直接の言及はあえて避け、あたりさわりのない自分の感想だけを披露する。
よって俺は、女の恰好をしていた時も、俺があれほどみっともない姿をさらしていることに、最後まで気づけずにいたのだ!
まあ、アスランにすれば、無理矢理結婚させられた相手である男の俺がどんな格好をしていようが、もともとさして興味がないことだったのかもしれないが!
「あのさ、アスラン、俺っ、大事な話があるんだっ!」
まだアスランが席にもつかないうちに、俺はさっそく切り出した。
騎士団の制服から、センスのいい私服に着替えていたアスランは、さして驚きもせずに小首をかしげる。
「大事な話……? いいよ。でもその前に……」
アスランはあの紫の瞳で俺をじっと見つめた。
「俺からも大事な話があるんだ、ククリ」
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