第9話

「もしかして、アスランは、俺と結婚したくない、とか……」


 もしかしてどころか、もちろんそのとおりに違いなかったのだが、当時の俺は、まさかそんなことあるまい、といった顔で両親に問いかけた。



「まあ、心配性すぎるわ、ククリ! アスランは貴方と結婚したくて、たまらないって様子よ!

でもね、わかるでしょ。貴方は国王の孫でもあるのよ。結婚するにはそれ相応の心構えが必要なのよ。特にアスラン・ベリーエフには!」


 母親の口ぶりから、どうやらエルミラはあまりアスランを気に入っていないのだということがわかった。



「ククリ、何も心配することなんて、いらないよ。今、ベリーエフ家とアスランにはいろいろとこの家のしきたりのことをじっくり話してきかせているだけだからね。

それがすんだら、すぐにアスランがプロポーズしに来るよ! ほら、もうきっと明日にでも!」


「……」




 俺は知らなかった。


 その時、俺との結婚に関してかなりの抵抗を示していたアスランを、両親が国王も巻き込んで必死で説得をしている最中であったことを!



 ーーそりゃそうだ。


 誰がどう見ても、非の打ち所のないいい男であるアスラン。家柄だって、悪くない!

 


 何を好き好んで、男である俺と結婚しなければならないのか。



 俺に目をつけられてしまったばっかりに、麗しの騎士・アスランは稀代のワガママ令息と結婚する羽目になってしまったのだ!!!!







・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




 結局、最後まで俺との結婚を渋ったアスランの説得は、思いの外時間がかかったようだ。


 俺はそれから一ヶ月後、式の準備もすっかり進む中、ようやくアスランからのプロポーズを受けた。


 俺の両親、そして祖父である国王が、辺境伯であるアスランの父親とその一家に、なにか多大なえげつないプレッシャーをかけて、この婚姻を無理やり了承させたことは想像に難くない。




 俺へのプロポーズ自体は騎士の作法に則った俺の理想そのものだった。アスランは礼儀正しく片膝をついて、俺に求婚した。



 すっかり舞い上がった俺は、これからの結婚生活にあたって、お互い守るべき事項をとうとうと述べた。


 それをアスランは笑顔で承諾し、俺は心から安心したのだ。





 ーーだが、今にして思えば……、



 あの柔和な笑顔の裏で、アスランは一体どんな思いを抱えていたのか?




 

 恐ろしさのあまり、俺はブルッと身を震わせた……。


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