第8話

「結婚ですって!? ククリがっ!?」


 当時17歳だった俺。

 勉強はからっきしだったが、妙に小賢しいところのある俺にはわかっていた。


 ーー未だに妻を「殿下」と呼んでしまう父親、そして母親に絶対服従する長兄と次兄……。

 

 我が家のパワーバランスは、わかり易すぎるほど、わかりやすかった!




 そう、この母・エルミラに頼めば、いつだって、きっとどんなことも可能にしてくれるのだ。



「はいっ、俺、どうしてもアスランと……」



「まああっ、結婚といえば、結婚式! 結婚式といえば、ウエディングドレス!!

ククリのウエディングドレス姿、お母様すぐにでも見たくてたまらないわ!!」


 エルミラというのは、昔からこういうところがあった。


 ことの重大性など全く気にかけず、自分のしたいことを最優先してしまうという、悪いところが……!



「ウエディング、ドレス……」


「素敵素敵素敵っ!!!! ククリっ、ドレスとパーティはお母様にきっと任せてくれるわねっ!

キュートでとっても可愛らしいお式にしましょう!

テーマカラーは、そうね、白とピンクと水色で!! ああ、その前に教会にも話をつけておかないと!

どうせなら、18歳の誕生日に結婚式にすればいいじゃない! それってとっても素晴らしいわ! ねえ、そうでしょう?」



 母にとって、俺が誰と結婚するかなど、もはやどうでもいいことのようだった。その時の彼女の頭の中には、自分のかわいい末っ子が自分が選んだとびきりイケてるウエディングドレスを着て式を挙げ、みんなが羨ましがる最高のパーティを作り上げることしかなかったのだ!


 あとから俺がアスランと結婚すると知り「あら、彼って黒髪だったのね……、水色に合うかしら?」と眉根をよせていた母親。結婚式当日だけでも、金髪に染めてもらえないかと、直接アスランに掛け合ったらしい。もちろん、丁重に断られたようだが……。


 とにかく、俺の母親はつまりは……、どうしようもない毒親だった……。




 そして、アスランの意向など全く無視して、俺とアスランの結婚話は進んでいった。


 もちろん、何もかもが上手く進むはずはなかった。


 まず、大前提として、俺とアスランは同じ男同士。


 この国では、基本的に同性同士の結婚は認められていない。


 だが……、



「お父様っ、こんなにかわいいククリがお嫁さんになりたいと言っているのよっ!

どうか、どうか、叶えてあげてっ!」


 母は強し。


 エルミラの必死の訴え(?)は、ついに国王の心を動かした。

 そもそも末娘であるエルミラにはめっぽう弱い国王……、特例として俺とアスランの結婚は認められた……。



 教会もおさえて、ド派手なパーティ会場の予約も済んだところで、問題は起きた……。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・





「ねえ、お父様、お母様、俺、まだアスランからプロポーズ受けてないんだけど……」



 夕食の席で切り出した俺に、二人はビクッと肩を震わせた。



「ほら、それは、その……、なんだ、つまりは……」


 明らかに慌てふためいている父・メルア公爵。



「心配することなんて、なーんにもないのよ、ククリ!

ねえ、そうでしょ、貴方?」


 一オクターブ高くなった声で、母・エルミラが父親に目配せする。




「ああ、もちろん、もちろんだとも、ククリ!

いまは、アスランと……、いや、ベリーエフ家といろいろ話をつめているところだ、

結婚となるといろいろ取り決めや契約が必要となるからな!」



「取り決め……?」



 不安になった俺は、兄二人を見る。


 そのとき実家に帰っていた長兄も次兄も、絶対に俺とは目を合わすまいと、一心不乱に厚切り肉にナイフを入れていた。




 ーーなにか、おかしい。


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