第6話

 それは、俺が14歳の誕生日を迎えてしばらくした、ある晴れた日のことだった。


 俺は、アスランと幼馴染のアナスタシア・ウィッテとともに、3人で森へピクニックへと出かけていた。



 ちなみに、このアナスタシアという女……。


 父親、母親、そして4人の兄すべてが王宮の近衛師団に所属しているという、根っからの騎士家系の末っ子。


 そして、俺が幼少期から剣術で唯一、一度も勝てなかった相手でもある。



 竹を割ったようなさっぱりとした性格で、曲がったことが大嫌い、ウィッテ家で一番男気にあふれているといわれているほどだ。


 そんなこんなで、俺とアナスタシアは、互いの剣術の腕を称え合い、8歳のころから永遠の友情の誓いを立てていたのだ。



 というわけであるからして、俺はアスランと一緒にいるときも、マブダチの一人として何の気なしにアナスタシアも仲間に引き入れることが多かった。




 ーー俺は、すっかり失念していたのだ。



 ーーその性格と思考回路がどんなに男らしいとしても……、


 アナスタシアが、レディであるということを……。





 その日、アナスタシアは、母親に無理やり着せられたという、メルヘンチックなピンクのドレスを身にまとっていた。


 そして、帰り道、事件は起こった。



 森の中のぬかるんだ道に差し掛かった俺たち。




 アスランは迷うことなく、手を差し伸べたのだ。



 ーー俺ではなく、アナスタシアに!!!!




 その時の俺の衝撃と言ったら、ちょっと言葉では説明できないくらいのものだった。




 それまで俺をなんでも一番に考えてくれていたアスラン……。



 だが「レディ・ファースト」の前に、俺はあえなく敗北した……。





 アスランはもちろん、貴族の子弟として、騎士を目指す男として、女性を優先するという、当たり前のことをしただけのことである。


 だが、俺はそのことをどうしても許すことはできなかった。





 ーーで、俺がどうしたかって??




 短絡思考で、目の前の欲しい物のことしか考えられない愚かな俺は、こう思った。





『俺だってレディになったら、ワンチャンあるんじゃね??』




 と……。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・






 しかし、そんなことを考えたとしても、普通は実行などしないし、できるわけもない。


 

 だが……、


 俺の置かれた境遇は、いわゆる「普通」とは大きくかけ離れていた。




「まあ、ククリっ! なんて可愛らしいのっ! まるで天使みたいだわっ!!!!」



 どうしても娘がほしかったというお母様。



 「女の子になりたい」と言い出した俺に、反対するどころか、狂喜乱舞した!



 そして、その日のうちに、俺の部屋はラブリーに改装され、ドレス100着、靴、アクセサリー、その他装身具が都心に3店舗ほど開けそうなほど、屋敷に届けられたのだ……。





 ーー俺はお母様の趣味の悪いきせかえ人形として、新たに生まれ変わった……。






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