修羅場乱入

昨日のこともあり、流石に深島は僕のことを避けているようだった。

おかげで探すのに時間がかかった。


だが、深島を見つけた時

丁度深島の元彼らしき男と一緒に居て別々に探す手間が省けた。


竜司りゅうじ、ちょっと待って。

まだ私は…」


「だから女捨ててるお前に何も思わねえの。

もう好きでもねえし。

最近七咲のとこ行ってるみたいだけどちっとも女らしくならねえじゃん。」


どこがだ馬鹿。

元々目鼻立ちしっかりしてる顔だけど

薄づきのメイクでいつもよりめちゃくちゃ盛れてるっての。


それにいつも付けてないネックレスだって付けてる。

ユニセックスなデザインだけどストリート系のファッションによく似合ってる。


それを理解してない馬鹿な元彼は続けてズケズケと物申している。

まるで深島の心に土足で上がり込んで荒らしてるみたいだ。


「お前どうすんの、女として終わってて挙句男にも負けてるの恥ずかしくない?

俺から振られて少しはマシになるかと思ったけど全然だよな」


黙ってる深島の様子を見ると下唇を噛んで

泣くのを我慢するようだった。


なんでそこまで我慢してまで復縁したいのか僕には分からないがそろそろ僕も我慢の限界が来そうだった。


「ここで泣けたら少しは可愛いのに泣きもしねえ。本当に可愛くねえ女」


「深島が可愛くないんじゃなくてお前が節穴すぎるだけだよ馬鹿」


「っ、七咲…!?」


可愛くねえの一言は地雷ワードすぎて思わず出てきてしまった。


特に深島は可愛く着飾って会いに来たって言うのに本当に節穴すぎる。


それに見る目も無い。

可愛さが分からない元彼も、こんな元彼に縋ってる深島も。


「お前の女らしいって何?レースとかリボンとかいっぱい付いたワンピースとか?

ハートのアクセサリーとか?


それよりシルバーアクセの手入れとか髪のケアとか爪のケアとかの方がよっぽど女らしいけど」


「な、何言ってんだよ!

女みたいな格好してるけどやっぱ女のこと全然知らねえのな。」


「額と鼻にでかいニキビ作ってる奴よりよっぽど信憑性あるけどね。


自分のことも疎かにしてるのに人に言える立場?ご立派〜!


そんだけご立派でも

深島がお前に捨てられたんじゃなくて、

お前が深島に捨てられたって思っちゃうけどね。」


眉毛も変に整えて左右平等の高さじゃないし、

髭の剃り残しもある。


よくもまあこのレベルで女捨ててるだの可愛くねえだの言えたもんだ。


「良い気になるなよ!」


と胸ぐら掴まれたけど

僕はこのTシャツの首元伸びちゃうなぁと呑気に思っていた。

煽り耐性も弱いし本当にこの男のどこが好きなんだ。


「知ってると思うけど僕ちょっとした有名人なんだよね。

しかもここ、授業終わりで人が多くなってるわけ。

言いたいことわかる?

女の子とそれを守った男が殴られてる、

もっと遠目で見たら長身の女の子に殴りかかったクズな男に見えちゃうかもね。

悪い噂っていうのは忘れられずに一生付いてくるよ」


有名人と言っても悪い意味でだけど、

噂に関しては自分の体験談のようなものだ。


ちゃんと尾ひれがついてどんどん事実無根な噂が出来上がる。

事実無根でもあの人なら有り得ると言われる始末だ。


既に胸ぐら掴んでいる姿でヒソヒソと声が聞こえて男はパッと手を離し、逃げるように去っていった。


深島に話しかけようとした時

深島は僕の手を掴んで人を掻き分けるように走り出した。


「あの、深島さん!?」


「うるさい黙って着いてきて」


と辿り着いた場所はいつかの鈴森さんをメイクしたあの空き教室だった。

早く入れと言いたげな鋭い目に負け、空き教室に入ると続くように深島も中に入った。


「で、誰から聞いたの?」


「…誰にも聞いてないけど、深島の彼氏を奪ったみたいな不愉快な噂を聞いてそんな噂ぶっ壊しに行っただけ。」


まるで頭が痛いように目元を抑えて

そう、と返ってくると暫く沈黙の時間が流れた。


「元彼を悪く言うつもりは無いけど、


今日はメイクしてるのに気付かないし

シルバーアクセの違いも手入れも知らない男やめといた方がいいと思う。」


「はぁ?何、私に文句言いたいわけ」


「そんなつもりないから嫌いな奴からのアドバイスってことで。


てかまじで殴られなくてよかった!こんなに可愛い顔が殴られたらあいつ末代まで呪うかも!」


「……なんなの本当」


と数日顔を合わせてたのに初めて深島の笑顔を見た。

だがその直後にボロボロと泣き始めた。

とても気まずいけど一応ハンカチを差し出すと

奪うように取り、手のひらで顔を隠した。


「泣き顔見ないで」


「別に泣いてる人見る趣味無いし。


でも深島は普通に可愛いと思う。


今日のメイクも似合ってたし、

髪もアクセも爪も綺麗にケアしてあるから

いつか分かってくれる人見つかるんじゃない?」


「…うるさい馬鹿。嫌い。」


「はいはい」


となるべく泣き顔を見ないように

でも傍にいながら泣き止むまでスマホを見ていた。

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