七咲と武光

入学式から最高点をずっと叩き出してるくらい

自分で納得のいく服やメイクで登校していたが、

正直言って高校選びは『ハズレ』だった。


先生も生徒もみんな僕のことを腫れ物扱いしていった。


別に気を遣って欲しくてこの格好をしてるのではなくて、

これが僕なのに誰もが異質な目で僕を見た。


ごく稀に内申点稼ぎか、

個性はそれぞれだと近寄る人もいたけど、

僕が席を外した瞬間


「あれってLGBTQってやつ?

___理解できないわ。

男がスカート履いたり女物の服着てるなんて

どこかおかしいでしょ。変だよ」


理解できないなら最初から近づくなよ。

変だと思うなら、おかしいと思うなら、

無理に仲良くなろうとしないで。


どんなに自分を可愛く着飾っても、

それを簡単に変だと切り捨てられるのが

とても苦しくて悲しかった。


そんな僕を見兼ねて支えてくれたのは二人の姉だった。


「あおちゃんは今日も可愛くて偉いよ。


そういう個性ってさ、

大人になる過程で無個性へと変わっていく人が

多いんだよね。

だから好きなものを体現してるあおちゃんは

とても凄いことなんだよ」


「中学の頃は変に隠しててキモかったけど、

今の葵は最高にかっこよくて可愛いよ。

私らはあんたの味方だからね」


落ち込む度に励ましてくれたり、

気晴らしにショッピングに出かけたり、

バイト先を紹介してくれたりと

姉達は僕の好きなものを一緒に守って、

両親はそれを見守って、尊重してくれて

とても心が救われていた。


学校は相変わらず嫌だったけど

バイト先と家族のおかげで

高校一年は何とか乗り越えられた。


二年生になった時、

改めて新入生の視線が痛かったりしたが

少しだけ慣れたせいか嫌な視線や声を

受け流すのも上手くなっていた。


そしてクラス替えで僕は武光望と出会った。


第一印象は

やたらでかくて何を考えてるのか分からない男。


他の人達と違って嫌な視線を送ることもなければ

陰口も言わない、

というか人と話してるところを見たことない。


常にアイツだけは何を考えてるのか読めなかった。

だから苦手だった。


僕に対して嫌な気持ちを抱いてるのなら避けたい。

傷つかないために。

なのに読めないせいでこちらは永久的に心理戦をしてるような気分だった。


それが変わったのはある日の体育だった。

ペアでストレッチするのに誰もが僕を避けるためポツリと立っていると


「…あー、七咲。

武光が一人だから一緒に組んでくれ。

体格差あってキツいと思うけど」


相変わらず腫れ物のように扱う体育教師と一緒に

また今日も何を考えているのか分からない顔で立っていた。


一緒にストレッチをしながら


「悪い。女子とストレッチした事ないから力加減が難しい。

痛かったら言ってくれ」


と言い放った。

は?と思わず声が出て武光の顔を見た。


「僕、男なんだけど」


「…………悪い。

そうなのか。今知った」


ずっと何考えてるか分からないと思っていたが

まさかずっと女だと思っていたとは。

だとすれば今から態度変わったりするのかなと思えば、


「じゃあ力加減しなくて大丈夫だな」


特に気にすることなく武光は僕に接してきた。


「武光は僕のことおかしいって思ったりしないの?」


「?

おかしいって思ってほしいのか?」


「違うけど…大体の人は僕の事変だとか、

おかしいとか思ったりするから…」


「別にそういう人間だっているだろ。

誰かに迷惑かけてるわけでもねえし。

迷惑してるっていう奴がいたらそれはただの被害者面だろ」


驚いた。家族以外に受け入れてくれる人なんていないと思っていたから。


「武光って何考えてるかわかんないから

そんな考え持ってるの意外」


「よく言われる。なんも考えてねえのにな。」


「本当に?」


「あー、強いて言えば飯?

あれ食いてえとかこれ食いてえとか。

バスケしてる時はバスケの事考えてる。」


「ふーん。

武光ってなんでこの学校選んだの?

バスケしたいなら他も行けるし、

ご飯だって学食美味しいけど特別美味しいかと言われたら普通じゃん」


「私服ならわざわざ制服からジャージに着替えることないだろ」


少し会話しただけでいとも簡単に打ち解けた。

勝手に心理戦してた自分は一体なんだったのか。


なんと言ってもこの学校で唯一僕を『七咲葵』として見てくれるのが心地よくて

それを機に一緒にいることが多くなった。

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