初めての女友達

その人がスズモリナノハだと気付いたのは昨日お店で見た顔なのと、ご丁寧に昨日買ったオレンジのロングスカートを着ていたからだ。


今日は秋だというのに三十度を越える暑さだったためか、オフホワイトのノースリーブのタートルネックと合わせていて昨日の彼女よりどこか大人っぽかった。


「えっと…」


「あ、まずは自己紹介ですよね!鈴森なのはといいます!チリンって鳴る鈴に森林の森で鈴森、なのははひらがなです!同じ学科で大学一年生です!」


スズモリナノハもとい鈴森なのはは緊張しているのかとても早口で聞きとるのに少し手間取った。


「…鈴森さん、もしかして罰ゲームとかで告白とかしてる?」


「え!?」


そう思うのも無理はなかった。


第一、僕はこの大学で浮いている存在だと理解している。

店員と客として以外何も関わりがない人から告白なんてそんなものあるはずがないと思った。


そして第二の問題は鈴森なのはの顔である。


「わ、私は本気で…!

…本気で七咲さんのこと好きで…」


嘘をついてるようには見えず、

ちょっとこっち来て、と鈴森さんの手を引いて適当に空き教室に入る。


「メイク落としあったかな…、

あ、あった。目閉じて、一回メイク落とすよ。」


彼女の前髪をヘアクリップで留めると困惑したように鈴森さんは目を閉じた。


リップはつい先程までナポリタンでも食べていたのか?というくらい鮮やかなオレンジ、

チークの色もアイシャドウの色も濃くてとにかくケバい。

メイク落としシートで落としてみるが、

顔半分で一枚がオレンジ色に染まった。


メイクを落とし終えて目を開いた彼女は俯きながら


「あの…、やっぱ似合いませんでしたか?

…やっぱり慣れないことするもんじゃないですよね!本当に馬鹿だなぁ私。」


と無理に笑っていたが目には涙が滲んでいた。


「鈴森さん昨日すっぴんだったでしょ?

メイク初めての人はみんな通る道だよ。濃くなるのあるあるだから。僕も経験したし。

ただ鈴森さんがそれで他の人に見られて笑われるの嫌いなんだよね。

っていうか、可愛くなるのに努力してる人を笑う行為がきらーい。


だからさ、可愛くしよ!」


と鈴森さんの顔に下地を塗っていく。

昨日から思っていたけど肌は真っ白だし素材としてはピカイチなんだよな、この子。


鈴森さんの顔は戸惑いの色が見えたがされたままのようにただ僕にメイクされていた。


「今日メイクしたのは服に合わせてしたの?」


「それもあるんですが、今日七咲さんに告白するって決めて気合を入れてと言いますか…」


「…どうして僕に告白なんて…」


と一人言を零したつもりだったが彼女はそれを受け取りぽつりぽつりと話していった。


「私、大学進学を機に上京してきたんです。地元は山しかなくて電車も三時間に一本とか。

都会はテレビの中の世界でとにかく魅力的に見えたんです。

だから実際都会に出てきて、大学で初めて七咲さんを見た時に、なんて可愛くて美人な女の子なんだろうって勝手に憧れてました。」


まぁ控えめに言っても僕は可愛いし憧れるのも分かる。

常に可愛くあろうと思ってる僕にとっては嬉しすぎる褒め言葉だ。

その後彼女は武光くんとカップルだって思ってたんですよ?と続けてうげぇと顔を歪めたら彼女は少し笑った。


「でも一ヶ月くらい経った頃に噂を聞いて…。

男なのにとか変人とか話してて。

そんな嫌な視線とか噂、知っているはずなのに七咲さんは堂々としていて、

可愛くてかっこよくて…、もっと惹かれていったんです。」


話を遮らないようにアイシャドウをする時やアイラインを引く時に目を閉じるよう合図すると、

彼女はそれを察して話をしながら僕に続くように目を閉じる。


「そして昨日、あのお店に行ったのは偶然で

七咲さんが働いてるの見つけて、

一時の欲といいますか、これを機にお近付きになれないかなと思いまして…」


彼女の顔が緊張でぴしりと力が入り、笑い声が零れた。

続けて?と言いながら僕は頬にチークを乗せた。


「お近付きになりたいと思ってたのに、昨日チェックシャツを触る手が大きくて男性の手だし、

スカート合わせてるだけなのに近くて変にドキドキしたり、

服を合わせて可愛いって言っただけなのにずっと浮かれて好きになってしまって…!」


チョロい女でごめんなさい!と彼女は頭を下げた。

リップ探してる時でよかった。メイクしてる時だったらぐちゃぐちゃになる所だった。


「え!?あ、別にそんなこと思ってないから!顔上げて?」


彼女はだって、と声を震わせながらゆっくり顔を上げた。

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