スズモリナノハ
講義を終え、サークルがある望にじゃあね、と一言伝えバイト先へ向かう。
かなり混んでいるのかな。休みが出た訳でもないのに急遽ヘルプなんてよっぽどだと少し足早に向かった。
*
バイト先のテナントに行くと想像以上に賑わっていた。
おずおずと店内に入ると店長と目が合った。
「葵!よく来てくれた〜!!」
ガバッと泣きつかれる。
本当に猫の手も借りたい状態らしい。
「なんでこんな混んでるんですか?」
「新作発売と同時にどうせだったらゲリラで在庫も処分しようって思ってさぁ〜!
新作の告知と一緒にセール告知したらもう思った以上に反響で!」
「何してるんですか……」
辺りを見渡して修羅場の空気を感じ、
早々に仕事しなきゃと裏に荷物を置くと店長から
葵はレジお願い、と言われレジに立つと怒涛のスピードで会計待ちの人が流れ込んだ。
楽しいし好きな仕事だけど今日ばかりは目が回るほど忙しく店長を恨む。
二時間ほどしてようやく落ち着き、一息入れると
「葵、今日はありがとう〜!もう上がって大丈夫だから!」
と言われ、はーいと間延びした返事をすると
一人オレンジ色のロングスカートを持って鏡と格闘してるお客さんが目に入った。
イヤホンや話しかけるなオーラがない限り声かけていいかと
「そちら気に入りました?」
と話しかけるとお客さんはビクッと体を震わせた。
「あっ、えと、あの……!!」
「可愛いですよね〜、それその一点のみなんですよ!」
「でも……こんな可愛いの似合わないし……。」
「え、似合いますよ!お召し物のチェックシャツをこうやって着ると今っぽい着こなしになるし…」
失礼します、と襟元を抜け襟にし、スカートを合わせて
「ほら、可愛い」
と言うとしっくりきたような笑顔に変わる。
この瞬間がすごく好きだ。
「あとロゴのTシャツとかトレーナー合わせてスニーカーと合わせるとラフになってチャレンジしやすいかも。
大人っぽく見せたかったらこういうタートルネックと合わせて……」
いくつかアイテムの合わせ方を教えるとそのお客さんはおずおずと
「これ、下さい…」
とロングスカートを購入してくれた。
レジに持っていき、
スカートを畳みショップバッグに入れると
あの、と声が聞こえた。
「会員カード、作ってもいいですか?」
「はい、無料でお作りできますので少々お時間頂きますね。
ここにお名前フリガナでご記入下さい。」
カードとボールペンを渡すと
スズモリナノハと綺麗な文字が書かれる。
お釣りと共にカードを渡し、閉まったのを確認してからショップバッグを渡すと
「…それでは、また」
と言ってそのお客さん、スズモリナノハさんは帰って行った。
てっきりまたお店に買いに来るという意味かと思ったが、翌日大学に通うといきなり
「七咲さん、好きです!私と付き合ってください!!」
と頭を下げる彼女、スズモリナノハがいた。
スパンコールドルチェ 飴水 @amemizu27
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