スパンコールドルチェ

飴水

可愛い男の子

赤色のシースルーなタートルネックに袖を通し、フリル付きのふんわりとした白のジャンパースカートを身につける。


今日のテーマはショートケーキだから甘めのピンクブラウンのカラーコンタクト。


メイクは可愛めにアイラインは垂れ目に、睫毛はアイドルのようにくるんと上げ、多幸感のピンクチークに、リップはちゅるんとした赤と一つ一つ丁寧に施していく。


最後にヘアアイロンで髪を緩く巻いて、大ぶりの苺のピアスとラインストーンがキラキラと主張する苺のリングと、

引き算として華奢なパールのネックレスを付ける。


白いフリルとバックリボンが付いたショートソックスにはやっぱり赤色の靴でしょ、とストラップシューズを履くとスっと背筋が伸びた。


「やばい、今日も僕可愛すぎる」


玄関の姿見には最強に可愛い自分がいる。

僕、七咲葵は今日も可愛い男なのだ。


性の多様化は昔より浸透したが、依然受け入れない人もまだ多く、大学内に入るとひそひそと声が聞こえる。


「あれでしょ?例の一年生」


「うわー、女にしか見えねえ。

おい声かけてみろよ」


「嫌だよ!変に気に入られたらどうすんだ!」


こんなのもう慣れっこだ。

始めこそは一つ一つに傷ついたり、病んだりしたけど今となれば

『なんで僕がお前らを気に入ってあわよくば仲良くしなきゃならないの?』

これ一択だ。


受け入れられない人なんて沢山いるし、無理に強要もしない。

自分が今日も無事に可愛かったらそれでいい。わざわざ突っかかって嫌な気持ちしなくてもいい。

何故なら嫌な気持ちになってしまったらこんなに可愛い僕が可哀想だから。


それに僕は別に変な女装癖でも無ければ恋愛対象が男なわけでもない。ただ可愛い物や服が好きでその好きを貫いているだけだ。

一周回って僕の方が男らしいのでは?とすら思う。


もちろん僕は一人ぼっちなわけではなく


「よぉ、今日は一段となんか気合い入ってんな」


「おはよー!今日はショートケーキをテーマにしてるからねー、可愛いでしょ?」


「ショートケーキ?あぁ、だから苺なのか」


と隣の席にスポーツマンのような筋肉質でがっしりした体に、襟足が刈り上げられた無骨な男が座った。


武光望、僕の数少ない親友だ。

僕と仲良くしているのと、いかにも二丁目でウケが良さそうな見た目から大学内ではゲイだと思われてる。

何でもかんでも見た目で判断するのはどうかと思うが本人が気にしてなさそうだったから僕も変に触れることはしなかった。


「で、なんで今日はショートケーキ?」


「昨日ネイル新しくしたから。ほら見て、可愛くない?いちごミルクカラー!

でもいちごミルクをテーマにするのは安直だからショートケーキ!」


透け感あるミルキーなピンク色が爪を彩りいつ見ても可愛くてテンションが上がった。

それを説明するとなるほどなと相槌を打ってくれる。


それから望と適当な会話をしていると

先生が入ってきて会話を切り上げ、講義を真面目に受ける。

今日は一限だけだしこの後どうしようと思っているとスマホがメッセージを受信した。


バイト先の店長からで急遽ヘルプに入ってくれないか?との事だった。


僕はアパレルショップでバイトをしている。

姉経由で紹介してもらったけど、

店長もバイト仲間もみんな性別は関係なく接してくれるからこのバイトが好きだった。


そういえば今日は新作入荷すると言っていたような。

丁度何も無かったし二つ返事で返信した。



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