第7話
――初登校の日の翌朝。
学校に登校して教室まで向かい、自分の席に座ろうとしたのだが、俺に気がついた朝凪さんが仁王立ちして待っていた。
「お、おはよう朝凪さん。朝からどうしたんだ?」
「冴島くんおはよう。そ・れ・で、なんで昨日一人で帰っちゃったの!?」
「えっ?」
むっすーとリスみたいに頬を膨らませ、可愛らしく怒りを露わにしている朝凪さん。
なんでそんなに怒っているのかがわからないが、とりあえず話を聞いてみよう。
「えっと、まずかったか?」
「そうだよっ! 学校案内はもう終わったし、また別のお礼をしようと考えてたの!!」
「あー……そういや保留にしてたっけ……」
:〝なんでも〟がまだ有効……ってコト!?
:盛 り 上 が っ て き た
:何を要求すんだい?w
:抱かせろと言うのだ
:↑男の人っていつもそうですよね!!
:据え膳食わぬはなんとやらだぜ
:さぁさぁ、腹をくくれ!
:やるんだな……今、ここでッ!!
とりあえずコメント欄は無視一択だ。
正直言ってこれ以上お礼をもらうのは憚られる。が、悪い気ではないというのも確かだ。
とは言っても、してもらいたいことなどは特にないしなぁ……。それじゃあやっぱり、
「保留で」
「そんな〜〜!!」
強いていうならば、昼休憩の時間に朝凪さんの周りに人が集まりすぎてストレスだからやめてほしい。
まぁ、それをやるとクラスの大半から恨まれるだろうし、俺がどこか静かな所に行けばいい話だ。
(静かな場所か……どこかあるかな)
ボーっと時計を眺めながら、俺は一時間目の先生が来るのを待った。
# # #
そして時間は経過し、四時間目の授業が終わりを告げるチャイムが鳴る。
俺は素早くバッグの中から菓子パンを取り出し、そそくさと教室を後にした。
「なぁ、この高校に住んでる妖精もいるんだろ? もし見てたら、静かで良い感じの場所教えてくれよ」
:旧校舎は静かだけど埃臭いしなぁ……
:屋上に続く階段も静かだけど暗いぜ
:保健室の横にある物置(ゴミ置きでもある)
:ロクな場所がねぇw
:基本的に昼時はどこでも生徒が蔓延ってる
:ぼっちぶっ殺しタイムじゃんね
:っぱぼっち飯といえばトイレだろww
:万事休すか?
プールニキ:プールは静かで誰もいないよ
「あー、プールか。確かに良さそうだな」
数年前からプールのなんかが故障しているらしいが、改修工事の見込みもないため長年使用されていないとかなんとか。
そこだったら人も寄り付かないだろうし、良さそうだ。
プールニキ:ただ、使うにあたってお願いがあるんだ。プールの掃除をしてもらいたい
「えー……めんどくさ。なんで俺がそんなことせにゃならんのだ……」
プールニキ:この声が届くのが君しかいないんだ。頼む、僕の最期のお願いなんだ
このプールニキという妖精にとっては、この高校のプールが大切なのだろう。しかも「最期」と言っているし、何か訳ありなのだろうか。だが、嘘をついている可能性もある。
数秒考え込んだ後、俺はため息を吐いてこう言う。
「はぁ……わかった。プールの
乗り気はしないが、静かで心地いい食事スポットが手に入ると言い聞かせて俺はプールへと向かう。
……背後から付けてくる誰かを感じながら……。
歩くことほんの数分。プールに到着した。
「プールに水位はそんなにないけど、藻が生えまくってんな。あと桜の花びらが浮いてら」
:ミスマッチな気がするがマリアージュでもある
:綺麗やん
:絶対ヌルヌルしてるよw
:昼休憩の時間だけで終わるか?
:フレーフレー、か・な・た
:やればできる!
手伝う気配が微塵もないリスナーどもは一旦無視し、俺は物陰に隠れながら俺を見るソイツを名指しする。
「で、そんなとこで何やってんだ? 朝凪さん」
「むぐっ!?」
ガタンと物音を立てた色々な器具を倒しまくる不審者……もとい、朝凪さん。
近づいて様子を見たてみると、フードをかぶっておにぎりを貪り食べている彼女の姿があった。
「……何してんだ、朝凪さん」
「私はおにぎり
「おにぎり刑事、ミッションは失敗だ。回れ右して帰りな」
「そうだね、おにぎり刑事には帰ってもらって……ここからは朝凪萌羽の時間だよっ!!」
「さいですか……」
:かわeeee!!
:許しちゃうわよん♡
:奏多も朝凪さんに慣れてきたな
:わざわざついてきたんか
:彼女の気持ちを無碍にするんじゃあないぞ?
:一緒に掃除したら?
:↑は? 萌羽ちゃんを汚す気か?
リスナーの言う通り、ここは帰ってもらう方がいいだろう。今から掃除で汚れるだろうし、まだ五、六時間目があるし。
「これから掃除するから、朝凪さんは帰ってていいぞ」
「誰かに頼まれたの?」
「あー、まぁな。掃除したら昼飯をここのベンチで食っていい的なことを言われてだな。ここなら人も来ないし、風も気持ちいいし」
「ふーん……。じゃあわかった! 私も冴島くんとお昼食べたいから手伝うよ!!」
「えっ」
そう言い放った朝凪さんは鼻息を立てながら腕まくりをし、しまいには靴と靴下を脱ぎ始めた。
どうやら、帰る気はないらしい。
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