第5話

 他の生徒が教室内で授業を受けている中、俺たちは手を繋ぎながら校舎内を練り歩いている。

 えげつないほどの背徳感があるが、後々のことを考えただけで悪寒が止まりやしない。


「ふふん、私がこの高校のなんたるかを教えてあげるからね!」

「朝凪さんもまだ入学して二日だろ。っていうか……なんで手繋いでんだ……?」


 教室を出る時からずっと手を繋ぎっぱなしで、健全な高校生男児には刺激が強すぎる。

 当の朝凪さん本人は特に何も気にしていない様子だが、こちらの身にもなってほしいものだ。


「冴島くんが転んでまた入院したら大変でしょ?」

「俺はそんかドジっ子じゃないぞ」

「むぅ……大人しく高校を知り尽くす先輩に従いなさいっ!」

「はぁ。まぁ人目はないしいい……のか?」


:よくはねぇだろがい

:裏山案件だよ?

:人がいないからっていちゃつきやがって……

:顔赤ッww

:初々しいねぇ

:邪魔者な俺らはクールに去るぜェ……

:もっとガンガンいこうぜ

:そのまま恋人繋ぎいったれ!

:ガッといきなさい


(コメ欄うるせぇ……)

「もしかして迷惑だったかな……?」

「えっ? な、なんでだ?」

「冴島くんの顔がむってなってるから……」


 相も変わらずコメント欄がうるくて顰めっ面をしていたら、朝凪さんに勘違いをされてしまっていたらしい。

 ここはフォローしてあげなくては。


「そんなことない!! 朝凪さんの手柔らかいしあったかいし、デメリットなんか一つもない、し……。……あっ」


 誤解を解こうと思っていたこと全部言ったが、話している途中からとんでもないことを語っていることに気がつき、勢いが低下する。


「すまん、忘れてくれ……」

「……いや」

「え」

「嬉しかったから、忘れない!」


 さながら必殺技で倒れる悪役のような断末魔を心の中で上げながら、朝凪さんの満面の笑みでジュワッと浄化された。


:ミ゜ッ(消滅)

:ぐぁああああああああ!!!!

:それは効くぜェ……

:もう付き合っちゃえよ!!

:↑待て! まだちょびっとだけ早い!

:これを機にブラックコーヒー挑戦してみっか

:ゔぉえッ!(砂糖吐き)

:二人とも可愛いなw


 まるで付き合いたての男女のような感じで少し浮かれそうになるが、朝凪さんは俺に対して何も思っていないのだと言い聞かせて学校の案内をしてもらう。


 音楽室や化学室などの授業で使う教室や、売店の場所、職員室の場所などなどを教えてもらっていた。

 そんな中、俺たちは次の教室へと足を踏み入れる。


「ここは生物室だよ。授業では使わないらしいけど、あの人体模型には噂があるらしいの……」

「おー、どんな?」


 薄暗い教室の奥に佇む人体模型に目を配り、朝凪さんの話を詳しく聞く。


「夜になるとね……なんと……!」

「なんと……?」

「心臓がピクピク痙攣するらしいの!! ひゃ〜〜!!」

「地味だなオイ」


:それはそれで怖いw

:廊下を走り回るとかじゃないんやね

:これは奏多に同意せざるを得ない

:生命が与えられている……ッ!?

:黄金体験してそうな心臓

:いつまで手ぇ繋いでんだ!

:もしや終わるまでじゃね……?w

:次の教室いこーぜー

人体もけ男:お待ちしておりました奏多様。このコメントが届いていたら手助けをしていただきたいのですが……


「ん……?」


 これといって見るところがないためすぐに次に行こうとしたのだが、一つのコメントが目に入った。

 何やらレスキューを求めるコメントらしかったが、名前的にこれは……。


「人体模型の妖精……?」


人体もけ男:いかにも、人体模型に憑く妖精でございます。実は心臓に何かが詰まっているようなので、取り除いて貰いたいのです


 正直いって面倒くさい。だが、スルーしたら祟られそうな感じがしたのでやってやることに。


「冴島くん? やっぱり人体模型さんが気になったの?」

「んー、まぁな」


 ポンっと音を立てて心臓を取り外し、軽く振ってみる。すると中でカラカラと何かが跳ねる音が聞こえた。

 俺は指を突っ込み、そのナニカを摘んで摘出することに成功する。


「指輪?」

「そうみたいだな。ハート型の宝石がついてるし、女性物か?」

「かわいいね」


人体もけ男:ありがとうございます! これで再びこの体で校内を全力疾走できます!!

:え

:あww

:解き放たれちまった!!

:封印を解いてしまったなぁ

:奏多なんしとんねんw


 是非ともやめてもらいたい所存だが、まぁ兎にも角にも助かってよかった。

 指輪はあとで職員室に届けることにしよう。


人体もけ男:お礼として私のを授けましょう。〝透過診断〟。これを優しき君に


「へ? ……いッ!!」

「さ、冴島くん大丈夫!?」

「あ、ああ。大丈――ブッ!?!?」


 人体模型から光の粒が放たれ、それが右目に入る。一瞬痛みが走ったが、すぐにそれは消え失せた。

 心配してくれている朝凪さんの方に目を向けたのだが、そこには姿


:加護は妖精が人に与えられる物ね

:それで魔法とか使えるようになるぜい

:まぁ妖精との意思疎通しないと使えんからほとんどの人は使えないがなw

:どんな加護なん?

人体もけ男:その眼で透過し、内臓の診断などを行えるものです。ただ、今の奏多様ではせいぜい0.1秒分しか透過できないので、服一枚程度しか透過できないでしょう

:えっ

:じゃあつまり……

:【速報】奏多、朝凪萌羽の下着姿をガン見する


 み、見てしまった。前回はパンツのみであったが、今回はガッツリと上も。しかもたわわな果実も見えてしまった。

 流石の罪悪感から、俺は床に膝をつくいて謝罪する。尚、鼻から血を垂らしながらである。


「すまん……朝凪さん……ッ!!」

「な、なにがっ!? 冴島くんどうしたの!? ってちうか鼻血!」

「いや、とにかくごめん!」

「だから何が!!?」


:草

:謝りながら鼻血を垂らすんじゃあねぇ!w

:現行犯っス

:男子高校生に与えちゃダメな加護じゃん!

:困惑してる萌羽ちゃんカワヨ

:奏多、お前を許さない

:よかったなぁ奏多きゅんww

:サービス回だな! ガハ!!

:こうして、朝凪さんの下着姿は晒されるのであった……

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