第4話

「…………。夢じゃなかったのかよ」


:グッドモーニーング!!(二回目)

:待 っ て た

:もう逃れられないゾ♡

:お前はもう……詰んでいる

:まぁ頑張って慣れろw

:本当に私たちのこと見れててるんだ……!

:すげー!!

:まずは「おはようございます」だるォ?


「はいはい、お前らおはような」


 目を開けて一番に飛び込んできたのは、件の妖精リスナーたちのコメントだった。

 だが、違和感が生じる。明らかにコメントの流れが昨日の倍くらいに早いのだ。そしてよくよくそのコメ欄を見てみると、変な数字が書かれてあった。


「同接数2.3万匹……? な、なんだこれ……」


:今見てる俺らの数だよ

:昨日は80人くらいだったのにねぇww

:ねぇ今どんな気持ち?

:顔引きつってますよ(笑)

:このままいけば朝凪ちゃんと同じくらいの同接数いきそう

:ぽまえが寝てる間に色々あったで〜

:ちな大バズりですw

:〈モ〉コメ欄を整えるモデレーターも誕生しております


 妖精界にもバズりとかあるんだなぁと、現実逃避して窓の外を眺める。素直にドン引き案件だ。

 正直これから生きづらいだろうが、バズって数が増えるだけならば無問題モーマンタイ。一番や厄介なのは一部の奴らだろう。


:萌羽ちゃんに近づくな

:呪うぞお前

:奏多殺す奏多殺す奏多殺す

:朝凪ちゃんは俺たちのだぞ

:死ね

:〈モ〉荒らしコメントや過度な暴言は300秒の発言を禁止します


「荒らしとかガチアンチが来たなぁ……」


:萌羽ちゃんって人気だしね……

:可愛いし

:よく一夜でモデレーター誕生できたなw

:大抵雑魚妖精だから気にせんでいいぞ


 大バズりした一方、朝凪さんのガチファンだった妖精どもにとっては炎上案件だったのかもしれない。

 まぁ、こういう悪質なコメントをどうにかしてくれるモデレーターもいるらしいし、なんとかならだろう!



 # # #



「えー……冴島奏多です。少し遅れましたが同じクラスメイトとして一年お願いします」


 ――パチ……パチパチ……。


 義務拍手が少数。

 俺は少し悲しい気持ちになりながら自分の席に座った。


 そう、別にコメント欄がどうにかなったところで、学校生活は遅れをとってもう手遅れなのだ。

 入学式から二日後、俺は病院からもオーケーをもらって高校に初登校したのだが、すでにグループが形成されていて俺の入る余地がなかった。


:乙!

:〜高校生活終了のお知らせ〜

:悲しいなぁ()

:出鼻挫かれてて草

:頑張れ頑張れ(愉悦)

:あ、キレてる

:やーーいww


(慰めの言葉が一つもねぇ……むしろ嗤ってやがる!!)


 クラスメイトからも疎まれてコメント欄からも嘲笑の声が上がる。なんでこんな人生ハードモードなんだ。

 俺の自己紹介は朝のホームルームにて簡潔に片付けられ、すんなりと終わりを告げて各々のグループが集まり始める。


 しかし、俺の周り……ではなく、俺の隣の席の朝凪さんに人々が集まり始めていた。


「朝凪ちゃんおはよー!」

「今日も一緒にお昼食べない!?」

「おいあんま集まんなよ、暑い」

「じゃあテメェがどっかいけよ」

「喧嘩しないでよ男子たち〜!」

「相変わらず可愛いなぁ……」


 その美貌を持っていれば人が集まるのは必然だろうし、彼女をめぐって争いが生まれるのも致し方がなしだろうな。


「え、えっと……皆さんおはようございます! 今日も一日頑張りましょう!!」


 クラスメイトを消滅させかける天使の微笑みエンジェルスマイルを放つ朝凪さん。直撃していたら俺も危うかっただろう。

 というか、朝凪さんはどうやら他人と話すときは基本的に敬語らしい。あのとき病院内では敬語を外して喋りたいと言っていたが、学校内では違うっぽいらs――


「あ、冴島くんもおはよっ。怪我治ってよかった! えへへ、今日からお隣よろしくね♪」

「「「「「は??」」」」」

「ゔーん……俺は死ぬのか……?」


 天使の微笑みエンジェルスマイルの直撃プラスクラスメイトからの怨嗟の念で相殺しあっていたが、このままでは殺されるかもしれない。

 なんとかしてくれという懇願の視線をコメント欄に向けるが……。


:貴様はここで死ぬ運命さだめ

:諦メロンw

:オメェのグッバイが確定したぜ

:いいやつだったよ……!

:骨は拾ってやる

:ワイらがなんでもしてくれると思うなよ?

:自分でなんとかしろ

:ファイティーン!


 このリスナーども、全く使い物にならない。それどころか要所要所で煽ってくるし、指示コメとかもうるさくてかなわん。


 これ以上目立つわけにはいかないと思い、息を潜めようと思ったのもつかの間。先生からこんなことを告げられた。


「あぁそうだ、奏多。今日の一限目はLHRロングホームルームで特にやることないし、学校内を色々案内してもらえ」

「え、わかりました。誰にですか?」

「あれ、聞いてなかったか? 萌羽だ」

「ゑ?」


 ――ゴゴゴゴゴゴ……!!


 これから一年を共にするクラスメイトからの視線とは思えないほど、殺気を孕んだ視線が俺に突き刺さる。


「えぇっと……ちなみに他の付き添いの人とかもいたり……?」

「別に二人でも大丈夫だろ。萌羽は推薦で入学した優等生だし、お前はその優等生を命がけで助けた優秀な生徒だ。信頼してるぜ」

「うっぷす」


 先生からの信頼と過半数のクラスメイトからの殺意。高校一年生の俺には重すぎる圧で、今にも田んぼ道でプレスされたカエルのようになりそうだ。


 周りから「なんであんな陰キャが」とか「断れ」とか聞こえてくる。その言葉が蔦のようにまとわりついて自由が奪われる感覚がした。

 中学の頃から、周りに同調して穏便に済ませる方法は知っている。ただ中学時代が延長するだけだから問題ない。


 そう思い、俺はおとなしくクラスメイトらに従おうとした。だが、無理矢理にでもその蔦を引きちぎって手を握られ、引っぱられる。


「冴島くん、行こっ!!」

「え、あ……――うん」


 とても当たり前のことなのだが、彼女の手は暖かかった。ただ、それだけで救われた気がしていて、とても俺らしくなかったなと思う。


:救済の手だね

:朝凪ちゃんいい子……!!

:クラスの奴ら出し抜いて校内デートとか最高かよ

:こーれざまぁですww

:気持ち〜〜^^

:嘘だろ……萌羽ちゃんが二人っきりなんて……

:↑朝凪ちゃんはうちの奏多がもらってくおw

:こっからは見守り隊モード発動か

:よっしゃァ! 初デートスタートだぜ!!


 こうして、俺と朝凪さんの学校探索がスタートした。

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