第176話

汚染されたノートを1ページめくり、ようやく星來が返事をする。



『私のいちばん好きなとこ1ついって』



朱朗に難題をつきつけた。世の男性陣が一番困る質問、『私のどこが一番すき?』。まさにそれだ。

 


しかし朱朗は、特に迷うことなく答えを書いた。


  

『おれに甘いとこ』



その一文で、図星をつかれたと感じた星來。そうだ、自分が朱朗を甘やかしてきたせいで朱朗をクズにしてしまったのだと。



『そっちだって私に甘い』


『あたりまえ 愛してるから』


『ちがう 溺愛してるくらいのこといって』

  

『よくそんな字はやくかけるね』  


『番組でれんしゅうした』



肩と肩が嫌でも触れ合う。それどころか、初夏の暑さであらわになる腕と腕も今にも触れそうだ。怖さも忘れ、意地になっていた星來。


 


そのやり取りを横目で見ていた一弥。



自分のノートに書いた部分を手で破り、星來の前に差し出す。 



『僕は出会った頃から君の全てを溺愛している。例え君の心が僕のものにはならなくとも、僕は君を想い続けるよ。』



それを見た朱朗。その一弥の切れ端に、走り書きをする。



『ありがとういちやくん。オレにはちょっとおもいわ』


『あとでなぐらせて』


『やさしくしてね』


 

星來はうんざりだった。なぜなら自分の場所を二人に取られたからだ。やるなら二人並んでやってほしい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る