第173話
「まって。もう一回、スマホ出して。」
「……え?」
「私の番号、入れておくから……。」
星來が、少し頬を染めうつむく。別れるつもりで来たはずなのに、何を言っているのだろう。
かわいすぎる星來のレアなデレ。触れたくて触れたくてたまらないが。朱朗はスマホを出さずに、やはりそのまま席を立った。
そして淡々と個人情報を並べる。
「080―XXXX―XXXX。」
「へ。」
「アカウントは@SEIREEN。メアドはseixxxn@xxx.ne.jp。」
「………覚えてるの?」
「何年一緒にいると思ってるの?」
「………」
「生年月日も好きな色も好きな食べ物も好きなコビトも。身長も体重もスリーサイズも足のサイズに指のサイズも。実家の住所も、実家の別荘も、今のマンションの住所も、コンシェルジュの名前だって言えんのに。」
さすが俳優。セリフは台本を数回読んだだけでほぼ完璧に覚えてしまうほどの記憶力の持ち主だが。
同じ能力を持つ星來は、朱朗の番号を覚えてはいなかった。
その場を立ち去ろうとする朱朗。
星來が、引き止めたい気持ちに駆られるも。まだ朱朗に対する恐怖は癒えず。ただその背中を見送ることしか出来なかった。
じっと朱朗の背中を見つめていれば、すぐに校内の女が声をかけに行く。
それを遠目に、やっぱり引き止めればよかったと今になって後悔する星來。
でもそんな星來の心配をよそに、朱朗は女を遮るようにして軽く手で払いまた歩いていき。女は憤慨した様子で地団駄を踏んでいる。
星來が見ている手前、今だけ女を避けたのかもしれない。それでも。今までなら見せつけるように女に腕を組まれ歩いていたのだ。
「(……これが、いつまで続くかしら。)」
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